奪われた令嬢は、蒼穹の騎士に焦愛される――本当の奥様は、貴女じゃなくてわたしです!?――

第2話 騎士の名はアイゼン



 次に目覚めた時、わたしは青年騎士の住む城にいた。



「良かった、目が覚めたね」



 青年は、メディウス・ロクス帝国の東部領の自治を任されている皇族の一人だった。



(綺麗な鳶色の髪に、空のような水色の瞳……) 



 名を、アイゼン・メディウス・ロクスと名乗った。

 皇帝グラース・メディウス・ロクスの異母弟なのだという。

 同母兄だったイグニス・ロクスは、異母弟である皇帝グラースに殺されてしまっている事実を知らぬ者は、この国にはいないと言って良いだろう。



 気づいた時には、綺麗な白いドレスにわたしは着替えさせられていた。



「君の名前はルビーで合っている?」



「は、はい。ルビーと申します」



 男に襲われた恐怖がまだ残っていたのか――。



 話しかけられてびくびくと震えるわたしに対して、彼は気遣ってくれた。



「私のことは兄だと思ってくれたら良い」



 水色の瞳を柔らげながら、わたしに向かって彼は微笑みかけてくる。



「ほら、大丈夫、とって喰いはしないから。ね――?」



 そうは言われても、なかなか警戒は解けない。

 身体がぶるぶると震えて仕方がなかった。

 すると、彼はぎゅっとわたしの身体を抱きしめてくる。



「蛮族に襲われたのが怖かったんだね」



 彼の優しい言葉や動作が、すっと胸へと落ちてくる。



「は、はい……子どもの頃にも、賊に襲われた経験があるらしく……小さい頃なので覚えていないのですが、無意識にその記憶があるのか……なんだか震えが止まらず……」



「そうか――辛い思いをしてきたんだね――」

 

 そう言って、彼はわたしの背を優しく撫でてきた。

 

 そうして、わたしの震えが止まるまで、しばらくそのままでいてくれる。



(なんだろう、すごく安心する……)





 わたしの震えが止まったのを確認すると、そっと腕の力を緩め、彼の身体が離れた。

 優し気に彼は話を続けてくる。



「村への救援が遅くなってすまなかった。君を助けるので精いっぱいで、両親たちを助けることは出来ずに本当に申し訳ない」



 皇族であるにも関わらず、わたしに向かって頭を下げてくる彼に、わたしは慌ててしまった。



「そ、そんな……顔をあげてください……!」



 そうして顔をあげて、寂しげに彼は笑いかけてくる。



「ルビー、良かったら、私の城で働かないか? 身寄りもないのだろう? うちの屋敷の使用人たちは、気のいい奴らばかりだよ」



 最初は戸惑ったが、実際問題行く当てがない。

 しばらく逡巡した後、わたしは彼の厚意に甘えることになった。



「良ければ、お願いいたします」



「そうか、君みたいに若い女性は少ないから、皆喜ぶよ」



 にっこりと笑うアイゼン様に、異性への耐性の低いわたしの心臓がドキンと跳ねた。



 そうして、彼の城に使用人の一人として、わたしは迎えられたのだった。

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