ファーレンハイト/Fahrenheit

#08 凍てつく心

 十一月十二日 午後十時四十五分

「お店ってこの時間でも営業してるんですか?」

 観光地のメインストリートから外れた道を歩く野川里奈は、美容院でセットしてもらった髪を触りながら俺を見上げていた。

「あのさ、頭、グズグズだよ」

 野川はその言葉に驚いてカバンから鏡を取り出し、髪を直し始めた。

 ――何で俺に鏡を持たせるんだよ。

 野川のその姿は優衣香と重なった。
 十五年前、俺が持つ鏡を見ながら優衣香も髪を直していた。

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