「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました
 その頃、リーゼは案内されたダンスホールで、鼻息を荒くしながらペンを走らせていた。

「滾る……滾るわ……エドアレ妄想が止まりませんわ!!!」

 リーゼのスケッチブックには、試験中に描いたアレクサンドラの横に、面接の時に話したエドヴィン王子の、より麗しさを増した憂い顔を描き足しながら、涎を垂らしまくっていた。
 リーゼの美的感覚からすると、少し目を伏せた時のエドヴィン王子の色気は尋常ではない。

「ああ……どうやって影をつければ、よりエドヴィン様が醸し出す美しさに近づけるのかしら……」

 まさか、その憂い顔を作ったのは自分だとは夢にも思わないリーゼは、なかなか再現できないエドヴィン王子の麗し顔に苦戦していた。

「ああ、もう……!こういう時、前世でよく使ってたカメラというものがあれば一発だったのに……」

 時々、思い返す前世の記憶。
 心だけに留めて置けず、いつでも見返したり、友人に布教するためには画像保存は必要不可欠。
 最もありのままを残してくれるカメラの存在が、リーゼはただ恋しくて仕方がなかった。

「こうなったら、やはり自分で作るしかないのかしら……」

 どうして前世の私は、カメラの構造を勉強しておいてくれなかったのかしら。
 などと、ぶちぶち文句を言いながら、リーゼは一心不乱にスケッチブックに向き合っていた。

「はぁ……せめてあと1回、エドヴィン王子のお顔が拝見できれば、素晴らしい絵画が完成いたしますのに」
「ご安心ください、リーゼ様」
「きゃっ!?に、ニーナ!?」

 突然現れた、信頼できる自分のメイドが、スケッチブックの裏からひょっこり顔を出し、リーゼは転げ落ちそうになった。

「もう、帰りの時間なの?」
「いいえ、リーゼ様」
「でも、他の方はお帰りになっているけれど……」

 確かに、リーゼ以外の令嬢は、すでに帰宅の準備を済ませていた。

「はい。他の方はこれで終わりです」
「他の方は?」
「そうです」
「私は?」

 できれば、早いところ帰って、他のエドアレ推しグッズの仕上げをしたなあ、ともリーゼは考えていた。

「リーゼ様は、もう1度殿下のお顔を拝見したいと、そうおっしゃいましたよね」
「え、ええ。そうね」
「理由はこの際聞かないことにしますが」
「え?」
「ご安心ください。リーゼ様には、1週間この城に滞在していただきます……とのことです」
「…………何ですって?」
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