18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

 最後の言葉が出てこない。

 そんなに難しい言葉じゃないのに、なぜ口にするのはこんなにも勇気がいるんだろう。


 私が言葉に詰まると、彼はとても落ち着いた声で訊ねた。


「どこへ帰るの?」

「えっ」

「言って。君はどこへ帰りたい?」

「……か、さんの」

「聞こえない」

 遥さんは座ったまま私の手を握って、上目遣いで訊ねてきた。

 じっと見つめられると恥ずかしくて顔を背けたくなる。

 けど、今言わなくちゃ、きっと言えなくなると思ったから。


「遥さんのところに、帰りたい」


 ゆっくりと、その言葉を丁寧に紡ぐように口にしてみたら、彼はまるでほっとしたように微笑んで、それから私の手を両手で握りしめて俯いた。


「遥さん?」

「よかった……逃げられるかと思った」

「えっ?」

 遥さんが顔を上げた瞬間、まるでうさぎさんみたいに寂しそうな()をしていて胸が痛くなった。


「本当は自信なんかないんだよ。まだ学校を出ていない君との結婚を急いだのも、誰にも奪われたくないからだ」

「遥さん……」

「戻ってきて、いろは。君がやりたいことがあるなら全力で応援する。大学に行けばいい。仕事がしたいならすればいい。君の人生だ。自由にして構わない。ただ……」


 握られた手にぎゅっと力が入って、同時に私の胸がぎゅっと痛くなる。

 私は呼吸も忘れて彼の言葉を聞いた。


「どこに行っても、必ず俺のところに帰ってきてほしい」


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