18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

29、苦しくて切ない日

 11月になったら、加賀さんがよくおうちに来てくれた。

 なぜならば、私が1ヵ月後に試験を控えているからだ。

 遥さんは私に勉強だけするように言った。


「さあ、今日はカツ丼ですよ!」

 その日の晩ごはんは加賀さんお手製のカツ丼。とろっとした卵がたっぷりのやつだった。

「あ、あの……」


 どうしよう、言えない。

 ここ最近ずっと、トンカツ、チキンカツ、メンチカツ、カツカレー、カツサンドと続いている。

 そろそろお魚が食べたい、なんて言えない。


「い、いただきます」

「はいどうぞ。召し上がって、どんどん勝ち進んでくださいね!」

「……はい」

 でも、カツ丼はとても美味しかった。



 ある夜、お風呂上がりに書斎の前を通りかかると、部屋の中から声が聞こえた。

 遥さんの落ち着いた声だけど、とても冷たい口調だった。


 誰かと電話をしている。

 盗み聞きなんてしちゃいけないとは思うけど、不安に思ってこっそりドアに耳をすませた。


「用件はそれだけですか? 忙しいので切ります」

 丁寧な言葉なのにやや強い口調だ。


 遥さん、怒ってる?


「いろはが大事な時期なので。邪魔をしないでください」


 わたしの話!?



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