薬術の魔女の結婚事情

さすがに。


 ゴーレムに動く命令式を与え、動作確認を行った。だが、

「あー。動くとかけらが落ちちゃう……」

困った様子で薬術の魔女は呟く。このゴーレムは魔力水で錬った粘土を造形して乾かしたものなので、動く度に部品同士が擦れてパラパラと粉が出るのだ。

「まあ、唯の乾いた土塊(つちくれ)ですからね」

 当然だろう、と頷く魔術師の男の反応は冷たい。

「なんか、もっと他に言い方ないの」

「事実ですが。他に何の言い様も在りませぬでしょう」

薬術の魔女が頬を膨らませても、彼はふっと鼻で笑うだけだ。

「んー、次は釉薬(ゆうやく)塗る!」

むー、と唸り、薬術の魔女は()()()への構想を宣言する。

「……陶器人形にするおつもりか」

「まあそんな感じ。焼いて固めなきゃ」

呟き、ゴーレムを作るための焼き窯をどうしようかと思案する。どこかで借りるか、それとも作った方が良いだろうか。

「とりあえず、ごーちゃんは品出しのお手伝いさんにしよう」

 び、とゴーレムを指さす。と、珊瑚珠色に一瞬だけ輝いた。

「然様で。成らば、物を壊さぬ様に棚の工夫も必要なのでは」

 口元に手を遣り、魔術師の男は疑問を投げかける。他にも、動きやすいように場所も取るのではないだろうか。

「あ、そうかも。おてて細かく作れなくてごめんね……」

それに頷き、薬術の魔女はゆっくり動くゴーレムの腕を撫でた。

「(……唯の土塊如きに、其処まで心を砕くのか)」

 ぎり、と魔術師の男は奥歯を噛み締める。彼女への好意を自覚してから、やけに彼女が他方へ向ける感情に対し苛立ちを感じるようになった。

「ん、どうしたの」

「いいえ、何も。……仕方ありません。折角ですので丈夫にして差し上げましょう」

しかし、その感情は表には出さずに魔術師の男は薄く微笑む。

「“堅固”(そして)、間接へ“柔軟”……(これ)で宜しいでしょう」

腰に下げていた小型の杖を抜き、つい、と彼は分解しないように魔術をゴーレムに掛ける。

「やったね、ごーちゃん!」

薬術の魔女は喜ぶが、

「……でも、なんか雑じゃなかった?」

宣言の前置きも無く、術も単純なものだった。

「気の所為では」

「んー? ま、いっか」

 しらばっくれる魔術師の男に、悪いものでなければ良いかと、薬術の魔女は気にしないことにする。

 そして次の仕事の日から、ゴーレムを店の奥に配置したのだ。

 また、薬術の魔女は造形の練習を始めた。

「やっぱり、細かい作業とかができる方がいいもんねー」

と言うことらしい。

「解剖学の本ならあるし」

「然様か」

薬学コースは取る授業によって医学の方面に行けるので、それで解剖学も学んでいたのだろう。

「自分でいうのもなんだけど、絵を描くのはそれなりに上手なんだよ」

「でしょうね。貴女の手作りの植物図鑑の絵は良く出来ておりましたので」

 一年目のことを思い出し、魔術師の男は答えた。
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