薬術の魔女の結婚事情

護符


「((まず)い、)」

 と、魔術師の男は気配を殺しながら思った。まさか、()()()()()()出会(でくわ)すとは思いもしていなかったのだ。
 いくら、魔術師の男自身が卜占(ぼくせん)で正確に居場所を特定出来るからと言って、思いの丈を打ち明けている場所の側に出るなど。

『そもそも、きみの名前も知らないし』

 そう、薬術の魔女の声が聞こえる。特に強い感情を感じさせない、あっけらかんとしたあるいは飄々(ひょうひょう)とした声が。

「(…………何とも、気不味い)」

 小さく息を吐く。
 『一旦、自宅に戻る』と告げたものの、手渡すための菓子は既に(あらかじ)め幾つか用意しており、それを組み合わせたものを取りに戻っただけだった。
 実際は『魔術師の男が作った菓子』ではなく、自宅に待機させていた式神に作らせた菓子だ。
 だが『それ専用に』と作られた式神(もの)以外ならば、式神は()()()()()()()()()()()()()()ので、そこまで差異は無いだろうと判断している。
 勝手に聞いたのは悪いとは思うものの、婚約者である薬術の魔女の内情をある程度知ることができ、それは良い収穫だと考えていた。

「(……(しか)し、)」

 本当に、彼女は薬草や薬術に関するもの以外には興味を示さないのだと分かった。そして、なるべく自由でいることを求めているのだということも。

×

「うわ、なんでそこにいるの?!」

 話が終わったのか、帰ろうとした薬術の魔女に見つかった。そもそも、彼女に見つかるような場所で待機していたので見つかるのは当然の話だ。

「……言ったでしょう。『卜占で貴女の居場所を見つける』と」

 溜息を吐き、魔術師の男は疑問に答える。

「いってたけどさあ……」

薬術の魔女は不満そうに口を尖らせ、

「……………………もしかして、さっきの聞いてた?」

と、胡乱(うろん)な目で魔術師の男を見上げた。ここは、先程まで彼女達が会話をしていた校舎の中庭から少しだけ離れた場所である。

「……はて。()()()()()()()()。私は先程、此処に参ったばかりでしたから」

 と、聞いていない振りをして、魔術師の男は質問を受け流す。恐らく、誤魔化せてはいない。彼女の顔が少し赤かった。

「何か、大事なお話でもなさっていたのですか」

ちら、と遠くに見えるその姿を見ると、親衛隊らしき複数の女学生に回収されている所のようだった。

「……なにも」

やや拗ねたように口を尖らせるも、彼女は答えをはぐらかすことにしたようだ。

「然様で御座いますか」

 彼女に返事をしつつ、菓子を手渡す。

「なにこれ?」

「『虚霊祭の御守り』の菓子ですよ」

「へぇ。あ、香草入りの焼いたお菓子だー」

不思議そうな様子の薬術の魔女に答えると、彼女は嬉しそうに歓声を上げた。

「……早速開けるのですね」

「だって中身気になるし」

 言いつつ、薬術の魔女は早速一つ摘み上げ、口へ放り込む。

「んー、おいしい!」

「お口に合ったようで何よりで御座います」

 世辞ではなく実際に気に入ったようで、彼女はまたもう一つに手を伸ばした。

「あれ、このお札なに?」

 袋の包装を縛っていた紐の先に付けたそれに気付き、薬術の魔女は札を魔術師の男に見せる。

「『魔を避ける御守り』です。菓子は全て平らげても宜しいが」

 言いながら札を紐から外し

「此の札は、()()く大きい窓の側にでも置きなさい」

 言い聞かせ、汚れていない方の手に札を握らせた。

「うん。分かった」

 「(……(これ)で、恐らく)」

 喜ぶ薬術の魔女を、目を細めて魔術師の男は見る。
 ()()()()()()()()()()()()()()()からは逃れられるはずだ。
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