【noicomi賞受賞作】今宵、この口づけで貴方様を――
第八章 言ノ葉ノ術
時間は、和葉が自らの死を決める少し前にさかのぼる――。


「ダメです!東雲様は、わたくしとここにいてください!」


逃すまいと、玻玖の腕に抱きつく乙葉。


「…いや、しかし――」

「旦那様、わたしは1人で大丈夫ですから…」


そう言って、和葉はお茶を淹れに1人で行ってしまった。


その場に残される玻玖と乙葉。

玻玖は小さくため息をつく。


「悪いが、そろそろ離してもらえないか」

「イヤですっ。離したら、東雲様はお姉ちゃんのところへ行ってしまわれるでしょ?」

「そうだな。そなたには興味がないからな」


面越しに乙葉に鋭い視線を送る玻玖。

しかし、乙葉はまったく物怖じしない。


「それに、仮にもそなたは嫁入り前の娘であろう。夫となるべき男以外に、勘違いさせるような行いはやめたほうがいいぞ」
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