シンデレラの次姉ですが、この世界でも私の仕事は他人の尻拭いですか?

二話 王子が探してる令嬢

 王子さまが、舞踏会で見初めた令嬢を探しているという告知が出た。

 家名も、名前も、分からないという。

 本来ならば、シンデレラが落としたガラスの靴を持って、ピッタリの足の令嬢を探すものだが。

 しかし、うちのシンデレラはガラスの靴を落としてないので、ここはノーヒントだ。

 さて、王子さまはどうやってシンデレラを見つけるのでしょうね?



「ちょっと王子さまに、探している令嬢は私ですって言ってくるわ」



 シンデレラが家を飛び出そうとしたので、もちろんソフィアは次姉の役目として止めた。



「王子さまがそんなに簡単に会ってくれるわけないでしょう? どうしてそういう発想になるのよ」

「王子さまが探している令嬢は間違いなく私だわ! だって私を見てよろめいたのよ? 悩殺されたんだわ、きっと!」

「そうだとしても、押しかけるのはマズいわ。ここはお城の人が確認に来るのを待つべきよ」

「まだるっこしいわ!」



 ソフィアとシンデレラがやいやい言い合いしていると、遅起きのグレイスがやってきた。



「なあに? 王子さまが探している令嬢がシンデレラですって? 有り得ないわ。きっとダンスをした令嬢の内の誰かよ。そうね、例えば私とか?」



 王子さまとダンスを踊れなかったシンデレラの痛いところをうまく突く。

 怒り心頭のシンデレラはグレイスに掴みかかる。

 二人のケンカ勃発だ。

 ソフィアは流血沙汰になる直前で、これをいなして止めなければならない。

 はあ。

 今日も元気が有り余ってるわね、二人とも。

 そんなギャアギャアうるさい我が家に、お城からの前触れが届いた。



『王子が舞踏会で見染めた令嬢を探している。当日は王子の側近が顔を確認に出向くので、必ず令嬢本人が応対するように』



 シンデレラは飛び上がって喜んだ。



「来たわ! ついに私のお妃さま生活が始まるのよ!」

「あなたではないわ! 私よ!」



 二人はお互いを押しのけ合い、それぞれの自室に駆け戻る。

 どうせ当日着るドレスでも選んでいるんでしょうね。

 そしておそらくシンデレラは、あの舞踏会に着ていたドレスを着るはず。

 私を思い出してください! と言わんばかりに。

 そう言えば、シンデレラはお城からソフィアたちと一緒の馬車に乗って帰ってきたわ。

 魔法使いが変身させたはずの、かぼちゃの馬車が無かったのだ。

 ちょっと見てみたかったんだけどね。

 もしかして?

 帰宅してからもドレスが消えなかったことを考えると、あのドレスはガラスの靴みたいに特別製だったのかもしれない。

 そちらに力を使い果たし、魔法使いはかぼちゃを馬車に変身させることが出来なかったとか?

 まさかね。

 馬車がなくてはお城に来ることなんて出来ないもの。

 きっと12時より早く消えてしまったんだわ。

 ソフィアはそう思ったが、どうやら真実はソフィアの想像寄りだった。

 何度もリテイクを出されたドレスに魔力を注ぎすぎて、もう魔力切れでかぼちゃの馬車を用意できないと魔法使いに言われたシンデレラは、ガラスの靴で走ってお城に来たと知るのはもっと後のことだった。

 

 いよいよ王子さまの側近が、我が家にやってくる日となった。

 接待の準備は万端だ。

 シンデレラはラスボス装備で、今か今かと迎え撃つ気でいる。

 玄関の扉から飛び出して行きそうなのを、落ち着かせるだけでソフィアは手一杯だ。

 グレイスがもう何重に塗っているのか分からない白粉のことなど、どうでもいい。

 ソフィアは今日も、自然界に馴染むベージュの保護色ドレスを着用した。

 シンデレラからの評価は「ついにススキが枯れたわ」と散々だったが、髪色に似たこのドレスを着ると一体感で心が落ち着く。

 そう、ソフィアの左右に広告塔のような二人が立っていても、だ。

 早くハッピーエンドに突入してくれと、それだけを願って、ソフィアも側近の到着を待ちわびた。

 側近は昼前に、護衛騎士を二人つれて現れた。

 背の高い騎士の一人は、騎士には珍しく眼鏡をしている。

 しかも色付きのガラスが使われた眼鏡で、とても高価なものだ。

 ついソフィアは珍しくて、しげしげと眼鏡を眺めてしまった。

 そうしたら騎士がニコリと笑ったので、慌てて視線を下にやる。

 恥ずかしいわ。

 子どもみたいな振る舞いをしてしまった。



「王子の使いとして来ました。これより令嬢たちのお顔を拝見させていただきます」



 側近が重々しく告げる。

 側近は小さなお爺ちゃんだ。

 でも威厳はあるので、ソフィアはビシッと背を伸ばした。

 側近は手元の紙を広げ、そこに書いてある内容に目を落とす。

 シンデレラが首を伸ばして覗き込もうとしているのを、慌ててソフィアは横から嗜める。



「王子の探しておられる令嬢は、華美でなく、楚々として、控えめな見た目をされています。この中で該当するのは、ソフィア嬢になりますね」



 側近の読み上げる声に、驚いたのはソフィアだけではない。



「そんなバカな!」

「王子さまの探している令嬢は私のはずよ!」



 グレイスもシンデレラも、敵になるならお互いだろうと思っていたのかもしれない。

 まさかの伏兵としてソフィアの名が挙がったことに憤慨している。

 そんな二人を見もせずに、側近はソフィアに問いかける。



「ソフィア嬢、思い当たる節はありますか? 舞踏会の会場で、王子に見染められた覚えがありますか?」



 ソフィアは舞踏会の日のことを思い出す。

 王子さまとはやたらと目が合ったが、それで見染められたと思うほど、うぬぼれてはいない。



「いいえ、そんな覚えはありません」



 はっきり、きっぱり言い切った。



「そんなはずはない! 君は僕の癒しだ! あの戦いの中で、君だけが僕の心の寄りどころだった!」



 眼鏡をかけた騎士が前に出てきて、ソフィアの足元に跪く。



「ソフィア、名前を知ることが出来て、とても嬉しく思う。どうか僕のことも、セオドアと呼んでもらいたい」



 騎士の眼鏡の奥の瞳はうるうるしている。

 なんですって?

 この騎士、今なんて名乗った?

 セオドアだなんて、王子さまと同じ名前じゃない。



「王子、ここで正体はバラさない約束でしたぞ。どうぞお控えください」

「爺! そんな呑気なことは言っていられない! ソフィアは僕の熱い視線に気がついていなかったようだ! これは大変な一大事だ!」



 ソフィアの左右で広告塔がポカーンとしている。

 ソフィアも出来ればそちらに混ざりたい。

 だが他人事ではないようなので、必死にこらえている。



「あの、もしかして……セオドア王子さまですか?」

「ああ、ソフィア、あなたに呼んでもらえて僕の名前も喜んでいるよ。そうなんだ、騎士の身なりをしているが、僕が王子のセオドアだ。僕しかあなたの顔を覚えていないから、こうして爺と一緒に、令嬢の顔を確認して回っていたんだよ」



 今度こそソフィアも呆気にとられたい。

 王子さまともあろう者が、貴族令嬢の顔を確認するために、一軒一軒、屋敷を訪ね歩いていたというのか。

 十人ずつでもお城に呼び寄せればいいのに!



「ソフィア様の言いたいことは分かります。私からもそのようにご提案いたしました。しかし、王子は自ら、妃となるべくご令嬢を迎えにいきたいのだと言い張りまして、このような形になったことをお伝えしたく」



 爺と王子さまに呼ばれていた側近は、ソフィアに対して礼をする。

 ソフィアよりもあきらかに立場も爵位も上の人が。

 ソフィア嬢ではなくソフィア様とソフィアを呼んだ。

 これはもう、妃扱いをされていると認識して間違いない。

 気が早くないですか?



「さあ、ソフィア、僕と一緒にお城へ帰ろう。僕がどれだけソフィアに惹かれて止まないか、たっぷりと話してあげるよ」



 ソフィアは、立ち上がると同時にしっかりと手を繋いできた王子さまに、そのままお城へ連行されるのであった。

 ここはシンデレラの世界じゃなかったの?

 どうしてソフィアが王子さまのお相手になっているの?

 これからどんな展開が待ち受けているの?

 今日でシンデレラの童話はハッピーエンドだと思ったのに!!!

 ドナドナされる豪奢な馬車の中で、ソフィアはこれからの自分の行く末について頭を抱えるのだった。
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