シンデレラの次姉ですが、この世界でも私の仕事は他人の尻拭いですか?

七話 バチバチの火花

 やっぱりね。

 ブルーベル王女さまは、ガッツリと肉食系だったわ。

 我が家にもいたから、そのやり口は知っているわよ。

 女の戦いは先手必勝、マウントを取りに来ているのでしょう?

 出鼻をくじくのが一番だって、グレイスもシンデレラも言っていたわ。



「ソフィアさま、貴女って後ろ盾がないのですってね? 王子殿下のご寵愛が薄れてしまえば、あなたの味方はいなくなるわ。私が相手にするには力不足のようだけど、ご自身ではどうお考えになっているの?」



 ソフィアの隠しようのない事実をあげつらい、戦闘意欲を削ぐつもり?

 そんな初手、ありきたりすぎて痛くもかゆくもないわ。

 どうせならシンデレラのように、いきなり噛み付いて来なさいよ。

 あれは本当に痛いわよ!

 そして血が出るわ!



「セオドアさまのご寵愛は深まりこそすれ、薄れることはありませんわ」



 ソフィアは落ち着いて返答する。

 王女さまがそんなギラついた目をしている限り、セオドアさまがその瞳を覗き込むことはない。

 ソフィアが気をつけなくてはいけないのは、国民の総意のほうだ。

 ソフィアよりもブルーベル王女が国益をもたらすと判断されてしまえば、上院議員だけでなく下院議員の支持も受けて、王子妃のすげ替えが行われるかもしれない。

 今は米の関税を下げるためにこの国に来ている王女さまだが、本気を出せばもっとこの国に有利な手札を切れるはず。

 そうなる前にソフィアも少し王女さまの鼻っ柱を叩き折っておこう。

 あまりソフィアを舐めてやんちゃをするようだと、容赦はしないという意味を込めて。



「ブルーベル王女は、外交官である第三王子殿下の代理でいらっしゃったはず。この国で何か問題を起こせば、それは翻って第三王子殿下の不祥事となるでしょう。果たして、ディランシア王国の国王陛下はそれをお許しになるでしょうか?」



 ブルーベル王女の顔がやや剣呑になる。

 そうだ、ここは突かれたくない要点のはずだ。

 第三王子殿下は、ディランシア王国の国王陛下が寵愛する側妃が生んだ王子だ。

 第三という立場に関わらず、国王陛下の覚えはめでたい。

 ブルーベル王女は正妃が生んだ王女だが、ディランシア王国の正妃と側妃の立場はほぼ対等。

 寵愛があるだけ側妃のほうが上かもしれないという微妙さだ。

 何か問題が起きたとき、国王陛下が切り捨てるのは正妃側だろう。

 ディランシア王国の内情について知識武装してきてよかった!



「ふん、少しは歯ごたえがありそうね。でもそれだけよ。私が味方につけた高位貴族たちは続々と王子殿下の情報を届けてくれるわ。私に攻略できない殿方などいないことを思い知らせてあげる」



 清楚な顔をして不敵な笑みを浮かべる王女さまとソフィアの間で、バチバチと火花が飛び散るお茶会は、その後すぐに解散となった。

 

「そうか、そんなことがあったのか。どうりでね」



 今夜も、ブルーベル王女対策会議はソフィアの部屋で行われている。

 すでにソフィアはセオドアさまの膝の上だ。

 お茶会であったことを聞き、なんだかしたり顔のセオドアさま。



「何かあったんですか?」

「関税交渉の場以外で、ブルーベル王女とよく出くわすようになったんだ。奇遇ですね、なんて言っているけど、間違いなく僕の行動予定表をもらした高位貴族がいるはずだ」



 そうでなければあの頻度はおかしい、とセオドアさまは言う。



「しかもなぜか僕の好きな色がベージュだと思われている。ソフィアの部屋をその色で内装したからかな? ブルーベル王女は毎回ベージュ色のドレスを着て関税交渉の場にやってくるんだ」



 呆れた。

 高位貴族たちがしていることは、ストーカーのほう助だ。



「だけどさすがに王女さまだね。質素に見えるベージュ色のドレスだけでは、国の威厳が保てないのだろう。パールが縫い付けてあったり、光沢のある布材だったり、僕の目にはてんで優しくないよ」



 セオドアさまは目をすがめた。

 関税交渉の場では向かい合わせに座っている二人だ。

 どうしても光が目に入るのだろう。



「髪の色も瞳の色も、ブルーベル王女は僕と同じだろう? なんだか僕自身を見ているようなんだよね。舌なめずりしながら獲物をどう食べてやろうかと虎視眈々としている様なんてさ、ソフィアの前にいる僕のようだよ」

「え!?そ、それは、その!?」



 油断した。

 また甘いセリフをぶっ込まれた!



「こんな不毛な会議じゃなく、もっと有意義なことに使いたいよね、夜の時間は貴重なんだから」



 セオドアさまに顎をすくわれ、いわゆる顎クイの状態でソフィアはセオドアさまと視線を合わせる。

 思慮深いと言われるセオドアさまの瞳は、いつでもしっとり潤んでいるように見える。

 それがとても色っぽくて、ソフィアはその瞳に捉えられるともう駄目だ。



「ソフィア、口を開いて。僕を受け入れて」



 ここから何が始まるのか、もうソフィアは知っていた。



 米の関税についての話し合いは、セオドアさまと下院議員が頑張って、なんとか平行線状態を保っている。

 高級品の香辛料サフランが欲しい上院議員や、嗜好品を融通してくれるブルーベル王女との繋がりを希望している上院議員は、このままではらちが明かないと、セオドアさまにブルーベル王女を歓迎する宴を催してはどうかと進言したきた。



「せっかく遠くから来てくださっているのですから、せめて滞在中に夜会のひとつでも開いてはどうでしょう?」

「交渉でお疲れのブルーベル王女にも、なにか楽しみがありませんとな」

「王子殿下がダンスにお誘いすれば、喜ばれるのではないですか?」

「ああ、それはいい! 美男美女のお二人のダンスは、きっと絵になる!」

「宴の予算については、私どもが拠出したいと思っております」



 金に糸目をつけず、しっかりと逃げ道を防いできた。

 何が何でも、セオドアさまとブルーベル王女を縁づかせたいのだろう。

 セオドアさまの隣にソフィアがいようとお構いなしに、ブルーベル王女の美点をぺらぺらしゃべる高位貴族たち。

 ブルーベル王女を王子妃に据え、ディランシア王国からの優遇措置を受けたい思いで必死なのだ。

 もう、その願望を隠そうともしない。

 そっちがその気なら、こっちも容赦はしないわ。

 ブルーベル王女はソフィアが恐れていた国民の総意を得るという切り札を切る気もないようだ。

 国民を放ったらかしにする王女なんて、国民の損益に心を痛めない高位貴族なんて、ソフィアが叩きのめしてやる。

 そうと決まれば段取りの鬼の血が騒ぐ。

 こういう裏でアレコレする仕事は、ソフィアの適性なのかもしれないわね。

 うんざりしているセオドアさまの顔色も読まず、宴の日取りや会場設営の担当決めで盛り上がる高位貴族たちの寝首をかく計画に、ソフィアはさっそく取り掛かるのだった。



 ブルーベル王女に気に入ってもらおうと、高位貴族たちは気合いを入れて宴の準備をしてくれた。

 おかげでこちらも計画を実行に移す時間が稼げた。

 なにしろ重要人物の到着には、ある程度の日数が必要だったからだ。

 ソフィアは入念に計画の見直しをしつつ、イザというときのために騎士団長のレオさんにも相談をした。



「それならシンデレラを起用するといいよ。まだ見習いだけど、いい仕事をするよ」



 ソフィアの護衛としてシンデレラを傍付きにすることを薦められた。



「シンデレラは外見だけ見ればどこぞのご令嬢だ。きっとあちらさんも油断するに違いない」



 中身は闘犬だけどな、とレオさんは笑う。

 あ、やっぱり闘犬ですよね?



「では、当日の護衛はシンデレラに任せます。レオさんは万が一のためにセオドアさまに付いていてください」



 ソフィアのキビキビした打ち合わせ姿に、レオさんは目を細めて嬉しそうにする。



「良かったなあ、王子にこんなにいいお嫁さんが来てくれて。この国も安泰だよ」



 はっ!

 さすが主従!

 甘い言葉をぶっ込んでくるのは一緒ですか!?

 ソフィアが赤い顔のままセオドアさまのもとに戻ったので、「レオに何を言われたのか」と嫉妬するセオドアさまから甘いお仕置きを受けたのはまた別の話だ。

 
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