愛毒が溶けたら
「どうして母さんが勇運を怒ったと思う?」

「……俺のことが嫌いなんだろ」

「はは、嫌いだったら怒りもしないよ。大好きだからさ。本当は怒りたくないけど、心を鬼にして怒ってるんだよ」

「心だけじゃなくて……顔も鬼みたいだったぞ。母さん」

「……ぷっ。それは秘密にしておかないとね」



子供好きの父親だった。だから何かと理由をつけては俺たちを構いたがった。

そして、俺たちも親父を嫌いになる理由はなかった。だから反抗期を迎えることなく、良い親子関係が築けていた。

家族みんなが、親父のことを好きだったんだ。


事故に遭う、あの日だって――



「もしもし。え……警察?」



俺は中学二年生。兄貴は高校三年生。

「守人は将来なにをしたい?」と、親父が子供の将来に目を向け始めた、春。

親父は、子供の未来を見ることなく、その生涯を閉じた。
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