新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
やっぱり、まゆみは私のことは何でも分かるみたいだ。
この時計の高価さに、気が引けていたのも事実。 そして、何だか負い目も感じていて、本当にこれで良かったのか、今でもまだ迷っているのも確かだった。
「それより、大丈夫なの?」
「何が?」
さっきと打って変わって、まゆみが真剣な表情になった。
「そんなお揃いの時計とかしちゃって、大丈夫?」
「えっ? 何で?」
まゆみの言わんとしていることが、よく理解出来ない。
「だぁかぁらぁ、私とかは良いよ? でも、お局様達が黙ってないんじゃないのぉ? お揃いの相手が、相手。 あのハイブリッジなわけだし……。 うちの会社は、社内恋愛は公認だし、総務にも部内恋愛してる子も居るぐらいだから、会社的には良いんだろうけどさぁ……」
「えっ? そうなの?」
「な、何? 陽子。 そんな、大きな声出して」
思わず、大きな声を出してしまった。
「だって、前に妊娠騒動があった時、高橋さんと社長室に呼ばれて社長に聞かれたことがあって……。 その時、高橋さんが社長に今後そのようなご心配をお掛けするようなことはないので……みたいなことを言ってたの。 それに、社長も経理は扱っているものが扱ってるものだからって。 だから、てっきり部内恋愛は駄目かと思ってた」
ほろ苦い、昔のことを思い出していた。
根も葉もない噂を立てられて、あっという間に広まって……周りの人から変な目で見られて、どんどん噂だけがひとり歩きしていって、いつの間にか私が妊娠してることにまでなってしまっていた。
そのことを社長にも聞かれた時、確かに高橋さんはそう言っていたし、社長もそんなニュアンスのことを匂わせていた。
「うーん……。 どうなんだろう?」
まゆみが、腕組みをしながら考えている。
当時を思い出して不安が募ってしまい、コーヒーカップを持つ手が震えた。
高橋さんから、離れたくない。
出来れば、今のまま同じ部署に居たい。
でも、それは組織の中にいる人間として、やっぱり不可能なのかな?
「だけど、会社の規約にも絶対に駄目ということは謳ってないのよね。 ただ、結婚したら同じ部署には居られないのは常識的なことであるけど、付き合っているからといって、駄目ってことはないと思うんだよね」
「そうなの?」
まゆみの言葉に一喜一憂して、百面相になっているのが自分でも分かる。
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