図書室で君と

「顔、真っ赤だよ?」

急に私を抱きしめた先輩は悪びれる様子もない。
先輩は、そっと私を抱き締めていた手を離す。


「ちょっ、なんで急にあんなことするんですかっ!」

さすがの私も黙っている訳にはいかない。


「あっ、やっと目合わせてくれた」
先輩の瞳に私の顔が映る。


「私の話聞いてましたかっ!?」

「うん、なんで急に抱きしめたかってことでしょ?あの2人組から逃げてたんだ」

先輩は楽しそうに笑う。

逃げてたからって、急に初対面の人間に抱きついたりするの?
イケメンの考えてることは分からない…


「でもごめんね。よく考えたら君の許可もらってなかった」

「そういう問題では…」
この人、普通の人と考え方が違うのかも…


「よく図書室にいるよね。名前は?」

図書室によくいる人間として認知されていたのは、少しだけ嬉しかった。
なんだか文学少女っぽい。

「1年の長月紅葉(ながつきくれは)です」

「紅葉ちゃんか。かわいい名前だね」
そう言って先輩は私の頭を撫でた。

「距離が近すぎますっ」

そうは言いつつ、名前を褒められたのは嬉しかった。

「ああ、ごめん。何年か前まで海外に住んでたから、未だに日本的な距離感が掴めなくて…」
先輩は僅かに戸惑ったあと、「あ、そういうことか」と何故か納得した様子。

「俺は3年の鈴城梨久(すずしろりく)。またね」

そう言って手を振り、図書室から出て行った。




いきなり抱きついてきたと思ったら、自己紹介してささっと帰ってしまった。
自分のペースが乱れて変な感じだ。

でも、あんな人気者の先輩が、昼休みの人気のない図書室に来ることなんて、もうないだろう。
ホッとしたような、少し残念なような…
< 2 / 7 >

この作品をシェア

pagetop