別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
第八章 もう一度 Side瞳&拓海

1. 抑えきれない感情 Side拓海

 自分の鞄からまったく記憶にないものが取りだされて拓海は激しく混乱した。どうしてそんなものが自分の鞄に入っているのかわからない。瞳が入れたのだろうかとほんの少しだけ疑いそうになったが、涙を流しながら問うてくる瞳が入れたわけがない。

 摩訶不思議な出来事に思考が停止しかけたが、拓海は少し前にその紙を目にしたことを思いだした。同時にそのときのやり取りも蘇ってくる。

 あの日、落ち込んでいた優に、拓海はとんでもないことを持ちかけられていた。


『拓海。これ見てくれよ。肝に銘じろって離婚届持たされてんの』
『そんなもの見せるな』
『こっそり捨てたら、今度は二枚になって返ってきたんだよ。ほら』
『どれだけ怒らせたんだよ……』
『俺一人じゃ淋しいから、拓海も一枚持ってくれよ。個人情報ばれたら嫌だからって何も書き込まれてないから大丈夫』
『奥さんのその判断は賢明だな。お前ならどこかに落としてきそうだし。でも、俺はいらない』


 しつこく離婚届を押しつけてくる優を拓海はずっと突っぱねていた。最後まで受け取らなかったが、優が隙を見て拓海の鞄に入れたのだとしたら合点がいく。

 拓海はもうほとんど確信を持ちつつも、その確証を得るために犯人と思われる人物へすぐさま電話をかけた。電話はスピーカーにして瞳にも聞こえるようにしておく。直接優とのやり取りを聞けば、瞳の誤解も解けると思ったのだ。

 優が電話に出てくれなかった場合は面倒だと思ったが、幸い拓海が電話をかけるとすぐに優はそれに応答した。そして、随分とのんきな声を聞かせてきた。
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