月花は愛され咲き誇る
「全く、どうせ遅れるならそのみすぼらしい髪も隠してくれば良かったものを。とにかくもうかの若君はご到着なされる。お前はせいぜい人の陰に立ち目立たぬようにするのだ」
「はい……」

 幸か不幸か、時間がないことが理由でお叱りは早々に終わった。
 その事に安堵の息を吐きつつ、人垣の奥へと向かう。


 香夜が通ろうとした場所は道が開かれる。

 穢れた娘という声も聞こえた。
 そんな娘に僅かでも触れたくないのだろう。
 里の者達の態度は香夜の心を更に凍らせる。
 これだから皆がいる所へは極力行きたくないのだ。

 厳しくても手は上げない養母に仕事を言い付けられ、黙々と一人で仕事をしていた方がどんなに気が楽か。
 日宮の若君が来なければこのようなことをしなくても良かった。
 そう思うと、どうしても考えてしまう。

(もう来るならさっさと来て、早く帰ってくれないかな……)

 と。
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