月花は愛され咲き誇る
「いる。絶対にいるはずだ。かつて感じた気配は他の鬼では有り得ない」
「ですが、聞いたところによると角のある本来の鬼の姿に変転する事も出来ないそうではありませんか!?」

 燦人の言葉でも納得できないらしい炯は声を荒げた。
 人の世に紛れるため、鬼達は普段角を隠し暮らしている。
 だが、大きな力を使うときは本来の鬼の姿となる。
 火鬼であれば目が赤くなり、髪も赤みを帯びる。そして全ての鬼に共通して、額に角が生えるのだ。
 だが、本来の姿を失って久しい月鬼はその姿すら忘れてしまったようだった。

「月鬼は特殊だからな。幾度も滅びかけた事がある。力も伝承も廃れてもおかしくはない」

 燦人の言葉に炯は何かを言いかけ、止める。
 そんな炯に燦人は柔らかな笑みを向けて告げた。

「何にしても、今夜分かることだ」
「そう、ですね……」

 納得は出来ないようだったが、今夜月鬼の娘達の舞を見ればはっきりするのだ。炯は口を閉ざし、夜の準備へと取り掛かった。

 燦人は静かになった雰囲気に身を任せ、かつて感じた気配に思いを馳せる。


 何でもない普通の日だった。
 十二の年、本格的に次期当主としての教育も始まり、庭で鬼としての力の使い方を学んでいるときだ。
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