幽霊の依子さんは 今日も旦那様を愛す
「ただいま」

修平が私、大路依子の写真へ手を合わせた。
 
おかえりー。今日はどうだった?


「今日ね、姫川さんに電車であったよ」

え?姫川さん?
あー、この前修平の膝枕で爆睡したあの姫川さんね。


「姫川さん、小さくてね。背は、、、いくつかな、俺のこの辺」
修平は胸の前に手をやった。

「依子って身長いくつだったの?」

164.7センチよ。
四捨五入で160センチ。

「俺が181だから、、、150くらいかな。線も細くてね。
そんな女の子が満員電車でぎゅうぎゅうになってて大変そうだった」

へえ、それはたいへんそうね。

「だから、電車で会った時は守りますよって言ったんだよ」

え?


「王子だけにって」

は?

「そしたらさ、ププッ」

そしたら?


「あははははは」

そしたらどうしたのよ?


「おもしろかったなぁ」

ねぇ、修平。そうしたらどうしたの?


「よし、ご飯作ろうかな」

と、修平は袖口のボタンを外しながらキッチンへ向かった。


ねえ!


数歩歩いて振り返り、
「依子は額はちょうどだったよな」

何のこと?

「ふふ、電車の中で額にキスしてよく怒られたよなー」
と笑った。



そ、それは、、、。
修平がキスしてくれるから、私はヒールのある靴で電車に乗ったんだよ。
それまではスニーカー履いてて、会社でヒールに履き替えてたんだよ。

怒ったフリしてたの。
でも、キスされて嬉しかったのよ。




「よし、麻婆茄子にしよう!」

冷蔵庫を覗き込んで呟く修平を見つめた。




ねえ、修平。
姫川さんのこと気になるの?

私は幽霊なのに・・・。
自分の中にある久しぶりの感情に動揺する。


私は知ってる。
これは、『嫉妬』だ。



両手で顔を覆い、修平に背を向けた。
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