スロウモーション・ラブ

「はなびはおつかい?」

「おつかいっていうか、自分が食べるものを」

首を傾げたりくに我が家の事情を説明すると、ふと彼の顔色が変わる。

「え、はなび家に1人ってこと?」

「うん」

「大丈夫?最近物騒じゃん」

「大丈夫。戸締りちゃんとするから」

最近一人暮らしの女性宅に侵入者が、という報道が増えているからか、りくの心配は大きいようで。

「この辺でも不審者が出たって聞いたことあるし」

「大丈夫だよ」

「でも男に何かされても抵抗できないでしょ」

「明日にはお父さん帰ってくるし」

心配を取り除けるよう言葉を返しても「でも」とりくは止まらない。

こんなに心配性だったっけと思っていると、りくが突然身体ごと私の方を向いた。

「おじさん帰ってくるまでいる」

「いや、それは……」

幼なじみといえど男子なわけで、親のいない間にりくを泊める方が問題な気がする。

そもそも私自身は心配していない。

困って眉を寄せると、りくが「じゃあこうしよう」と続ける。


「うち泊まりにきて」


「えっ」

「今日は泊まりにきて。お願い」

子犬のような表情で「お願い」と言われては私も簡単には突っぱねられず、つい黙ってしまった。

それが隙となり、りくはさっさと律子さんに電話して私の事情を話してしまう。


「母さんが来ていいって言ってる。ていうか、心配だから泊まりにおいでだって」

「……じゃあ、おじゃまします」

律子さんを出されては私も抗う術はなく、結局、明日の朝までりくの家でお世話になることになってしまった。

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