スロウモーション・ラブ
「そうじゃなくて……」
りくは少し間を置くと、迷うように言葉を紡ぐ。
「これからも先に先に歩いていっちゃうのかなって、思って」
その瞳が、花火から私へ移る。
切なげに微笑むりくに見つめられ、静かに息を飲んだ。
「俺は、……寂しい」
これ以上聞いてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴る。
だけど、それを押しのけるように、りくの声が私に届いた。
「俺は、はなびに必要とされたい」
りくと私の間にあった距離が縮まる。
ここにいてはいけないと思いながら、一瞬の判断が遅れてしまった。
りくが、私の腕を掴み、引く。
────あの時も、そうだった。
触れたのは今度は唇ではない。頬が、胸が、りくの身体へ触れる。
背中に腕が回り、抱きしめられていることを理解する。
おどけられる雰囲気ではなくて誤魔化す言葉も出てこなくて。
ドンッ、と一際大きな花火が上がり、それと同時に吐息のような声が私の鼓膜を揺らした。
「……好き」
小さな小さな声は、花火に紛れる。
「りく……何て? 花火の音で、聞き取れなくて」
笑顔を作って顔を上げると、りくの手が離れていく。
「ごめん、なんでもないよ」
部屋を出てからもりくの声が、体温が、感触が、私にこびりついて離れない。
胸が痛むことに気づかないふりはもうできない。
本当はあのキスから気づいていた。気づいていたうえで、なかったことにしていた。
揺れる自分の心が、嫌い。
(りく、ごめんね)
その夜は、何度も何度も心の中で謝りながら眠れずに過ごしたのだった。