【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 今儂の目の前にいるのは、ジュデットとセーウェルトの国境線を北に辿った先にある、ソムネル王国の国王フィーゴ・ソムネル氏だ。つまり北方で唯一、二国と領土を同時に接する国の指導者なのである。

 そのため彼は度々、セーウェルトとジュデットの関係がこじれそうな時に二国間の調停役を買って出てくれた。儂も長年信頼を置いている。見た目は好々爺といった感じの御老体であるが惑わされるなかれ、流石は一国の元首、老獪であなどれない知恵者なのだ。

 エルシアが我が国を発って幾日も経たぬのだが、もう情報を掴んでいるのか、彼は小声で話した。

「どうやらセーウェルトが一時兵を引いたようですな。二国の停戦が成ったのは喜ばしいことだが、あの国のことだ。ご油断召されぬほうがよろしいでしょう」
「ご忠告痛み入る。セーウェルトだけはどうも、我が国と誼を結ぼうという意思が感じられませぬ。一体何が彼らを……いや、セーウェルト王家をこうも駆り立てるのか」

 フィーゴ殿は、白いあごひげを撫で、目を細める。

「私の先代よりも前の代の話ですが、当時の王がセーウェルト王の漏らした言葉を聞いたことがあるそうな。何やら、人と魔族、そして聖女に関し、彼らの王だけに伝えられる歴史があるとか……」
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