【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく

7.元大聖女、魔族の王を診る

 クリスフェルト殿下はあの後すぐ、保管されていた私の荷物を取りに行ってくれた。

 ――かくして数分ののち、手渡されたトランクを開き、奥に入っていた鍵付きの薬箱を開け陽炎草を出して渡すと、ベッカーは震える手でそれを掴み、窓際に駆け寄ってまた大きく何かを叫ぶ。

 それで満足したのか、彼はやっとすっきりした顔でこちらに戻ってきた。
 まあ彼らからすれば、お国の一大事を救う鍵になるかも知れないのだ。騒ぐのも仕方ないね。

「すまぬ、少々取り乱した。これぞ……、これぞまさしく陽炎草! しかし女よ、これをいったいどこで手に入れたのだ?」
『私、実はセーウェルトの元聖女でして』

 彼が掲げた小瓶に入っている小さな葉は、橙色で透けるように薄い。
 これは本来私が大聖女でなければ手に入らなかったものだ。

 大聖堂には色々な秘薬が国中から集まってくる。そこで使用していた自分用の薬箱を家に持って帰る際、確認を怠ってしまったせいで本来返却されるはずの陽炎草が手元に残ってしまったという。
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