桜ふたたび 前編
❀ ❀ ❀

見つめ合う恋人たちの向こうに、夢のような窓景色が広がっていた。

超高層階から見下ろす色とりどりの街灯りは、霊峰の裾野のように遙か彼方まで広がり、まるで銀河の星屑で織った絨毯に立っているようだ。

幻想的な光景に、夢ではないことを確かめ合うように、もし夢でも覚めてしまわぬようにと、ふたりは神妙に唇を寄せ合った。

さざ波のようにはじまった口づけは、寄せては返し、やがて烈しい激情のうねりとなって、澪を呑み込んでいった。

啄むようなキス。少し冷たい唇の感触。髪をまさぐる熱い指先。

どんなにこのときを待ち焦がれただろう。
恋しくて、逢いたくて、ようやくニューヨークで再会して、互いの想いを確かめ合いながらも、口づけも交わさぬまま別れたあの朝から。

歓びの涙で洟を詰まらせ、それでも呼吸を忘れてキスに応じる澪が、危うく気を失う前に、ジェイは名残惜しげに唇を離した。

宝石の欠片を散りばめたような夜景より、涙に輝く瞳のほうが美しい。
ジェイはそっと唇で涙をすくい、キスだけで蕩けそうになった体を胸のなかに抱いた。

「このまま浚ってゆきたい」

「連れて行ってください」

不可能なことは、澪にもわかっているのだろう。
トミー・パーカーの失脚により無実が証明され、AXファンドへの復帰は果たしたが、一度失った信用を回復させることは容易ではない。嵐の渦中に澪を帯同しても、鳥かごに閉じこめておくよりもっと悲惨なことになる。

それでも〈ついて行く〉と言う、彼女の愛が、嬉しかった。

ジェイは澪の額にキスをすると、上着のポケットからアイボリーの小箱を取り出した。
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