忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

19.絶対見に行く

 文化祭が近づくにつれて。

 大学の中が、少しずつ変わっていった。

 廊下には色とりどりのポスターが増え、中庭では大きな看板を運ぶ学生たちがいる。

 歩いているだけで、どこかから音楽が聞こえてくる。

 笑い声。

 誰かを呼ぶ声。

 慌ただしく走っていく人。

 普段と同じ大学なのに。

 少しずつ、特別な場所になっていくようだった。

 ダンスサークルも同じだった。

「もう一回、頭から!」

 声が飛ぶ。

 止まった音楽が、また最初から流れ始めた。

 床を踏む音。

 揃って動く身体。

 時々誰かが間違えて、笑い声が上がる。

 その少し離れたところで。

 亜美は床に座り、膝の上にファイルを広げていた。

 当日の集合時間。

 衣装。

 出演順。

 必要なもの。

 確認して。

 書き込んで。

 終わったものには印をつける。

「…………」

 忙しい。

 本当に。

 最近は一日があっという間だった。

 少し前までは、次から次へと頼まれることに慌てていた。

 けれど今は。

 少しだけ、分かるようになってきた。

 何を先にすればいいのか。

 誰に確認すればいいのか。

 自分が何をすれば、みんなが動きやすくなるのか。

 大変だけれど。

 嫌ではなかった。

 みんなが文化祭に向けて頑張っている。

 その中に。

 自分もちゃんといる。

 高校生だった頃には知らなかった感覚だった。

「亜美ちゃん」

「はい」

 呼ばれて顔を上げる。

 先輩が一枚の紙を差し出していた。

「これ、当日の全体スケジュール。マネージャーも持っといて」

「ありがとうございます」

「うちらのステージはここね」

「はい」

 受け取った紙へ目を落とす。

 いくつもの団体名。

 その横に、時間と場所。

 ダンスサークルの名前を見つけて、指で追う。

 集合。

 準備。

 本番。

 片付け。

「…………」

 頭の中で当日の動きを確認しながら。

 そのまま下へ視線を滑らせた。

 そして。

 指が止まる。

「……軽音」

 小さく呟いた。

 軽音サークル。

 その文字を見た瞬間。

 胸の奥が。

 とくん、と鳴った。

「…………」
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