忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

32.今度は俺が待つ

 演奏が終わった。

 亜美はしばらく余韻に浸っていた。

「……やっぱり好きです」

「曲?」

「はい」

「そっか」

 幸也が鍵盤から手を離す。

 亜美は名残惜しそうにキーボードを見てから立ち上がった。

「ありがとうございました」

「うん」

「また聴きに来てもいいですか?」

「いいよ」

「……本当に?」

「何で疑うの」

「だって……」

「来てよ」

「…………」

 亜美が幸也を見る。

「はい」

 嬉しそうに笑った。

 その顔を見て、幸也も少し口元を緩める。

「じゃあ、また」

「うん」

「幸也先輩」

「ん?」

「今日は本当にありがとうございました」

「別に。俺が聴かせたかっただけだし」

「…………」

 亜美の頬が赤くなる。

「じゃあ……また来ます」

「うん」

 扉が閉まった。

 静かになった部室で、幸也はしばらくそこを見ていた。

 さっきまで亜美が座っていた場所へ視線を移す。

『また聴きに来てもいいですか?』

「…………」

 幸也は椅子に座ったまま、鍵盤に指を置いた。

 一音だけ鳴らす。

 今日。

 亜美に聴かせたかった。

 初めて会った日に弾いた曲を。

 来なくなってから、何度も探した。

 会いたかった。

 だから呼んだ。

 演奏を聴いている亜美を見ていたら、それだけで嬉しかった。

 また来たいと言われて。

 もっと嬉しかった。

「……そっか」

 小さく零れた声が、誰もいない部屋に落ちる。

 やっと分かった。

 好きなんだ。

 亜美ちゃんのこと。
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