忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

5.初めて話した日

 朝、目を覚ました瞬間。

 亜美は、学校へ行きたくないと思った。

「…………」

 天井を見つめたまま、しばらく動けなかった。

 昨日、丈に話を聞いてもらった。

 机の中に入っていた小さな紙も、丈が捨ててくれた。

『いらないものまで大事に持ってなくていいよ』

 その言葉を思い出す。

 昨日の帰り道は、少しだけ気持ちが軽かった。

 明日も学校へ行ける。

 そう思ったはずだった。

 でも。

 朝になれば、また怖くなる。

 制服を着れば、学校が近づく。

 家を出れば、もっと近づく。

 校門をくぐれば。

 また、あの教室へ行かなければならない。

「亜美ー、起きてる?」

 扉の向こうから母親の声がした。

「……起きてる」

「遅刻するよ」

「うん」

 身体を起こす。

 制服に着替える。

 鏡の前に立ち、長い黒髪を整えた。

 鏡の中には、いつもの自分がいる。

 何も変わっていない。

 なのに。

 学校へ行くと、この姿が自分のものではなくなるような気がした。

 綺麗。

 大人っぽい。

 何もしなくてもモテる。

 男好き。

 自分が望んでもいない言葉を、勝手につけられる。

「…………」

 亜美は鏡から目を逸らした。

 大丈夫。

 何かあったら、丈に話せばいい。

 先生なら聞いてくれる。

 そう思うと。

 少しだけ、足が動いた。
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