忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
 その日の塾。

 仕事を終えた亜美は、荷物をまとめていた。

「お疲れさまでした」

「お疲れさま」

 周りの講師たちに挨拶をして、出口へ向かう。

 その途中。

 少し離れたところに丈がいた。

「…………」

 目が合った。

「先生」

「お疲れ」

「お疲れさま」

 それだけ。

 丈はいつも通りだった。

 冷たくもない。

 怒っているようにも見えない。

 だから。

 亜美もそのまま帰ろうとした。

 けれど、数歩進んだところで足が止まった。

「…………」

 今までは。

 仕事が終わったあと、少し話した。

 一緒に歩いた。

 幸也のことも。

 大学のことも。

 何でも。

 相談はしない。

 それは分かっている。

 でも。

 普通に話すくらいなら。

「先生」

 振り返る。

 丈もこちらを見た。

「何?」

「あの……」

 何を言いたかったのか、自分でも分からなくなる。

「今日、もう帰る?」

「帰るけど」

「そっか」

「うん」

「…………」

 会話が終わる。

 なのに。

 亜美は動けなかった。

「亜美?」

「……何でもない」

「そっか」

 丈が荷物を持つ。

 そのまま出口へ向かう。

 亜美も隣に並んだ。
< 283 / 426 >

この作品をシェア

pagetop