忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

39.仕組まれた衝突

 軽音サークルの部室。

 亜美が扉を開けると、幸也はキーボードの前に座っていた。

「幸也さん」

「亜美ちゃん」

 いつもと同じ声。

 それだけで頬が緩む。

 亜美は幸也の隣へ行った。

「今日は何弾くんですか?」

「まだ決めてない」

「そうなんですね」

「うん」

 隣に座る。

 けれど、幸也は鍵盤に手を置かなかった。

 亜美は少し待ってから、幸也を見る。

「……弾かないんですか?」

「あとで」

「はい」

 膝の上で手を重ねた。

 何となく、いつもと違う。

「亜美ちゃん」

「はい?」

「今日、群司くんと話した」

「…………」

 指先が止まった。

「群司と……?」

「うん」

「何を……」

「丈のこと」

「…………」

 胸の奥がざわついた。

「丈と、どういう関係なの?」

「…………」

「亜美ちゃん?」

「同じ……バイト先です」

「それは知ってる」

「…………」

「高校のとき通ってた塾なんだよね」

「……はい」

「俺が聞いてるの、そういうことじゃない」

 亜美は俯いた。

 幸也の声はまだ穏やかだった。

「文化祭の前の日、俺に告白したあと」

「…………」

「丈と会った?」

 重ねた指に力が入る。

「……はい」

「何で?」

「…………」

「亜美ちゃん」

「相談が……あって」

「相談?」

「……はい」

「何の?」

「…………」

 答えられなかった。

 幸也は少し待ったけれど、それ以上は聞かなかった。

「あと、もう一つ」

「…………」

「文化祭の日、群司くんがステージに出る前に気づいたらしいんだけど」

 幸也が亜美を見る。

「亜美ちゃんの首に、キスマークがあったって」

「…………」

 亜美は瞬きをした。

「キス……マーク?」

「うん」

「私に……?」

「知らなかった?」

「……はい」

 首元に手が伸びた。

 もう、そこには何もない。

 文化祭の前の日。

 丈に会った。

 抱きしめられて。

 首筋に触れた唇。

「…………」

 指先が冷たくなる。

「群司くんから聞いた」

 亜美が顔を上げた。
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