忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―

2.大学見学

 夏休みに入って間もない朝。

 亜美は、自室の鏡の前で三度目の髪をとかしていた。

 いつもと同じ黒い髪。
 いつもと同じように下ろしているだけ。

 それなのに、なぜか今日は少し気になる。

「……変じゃないよね」

 鏡の中の自分に問いかけてから、亜美は首を傾げた。

 別に、誰かに会いに行くわけでもない。

 今日は大学見学だ。

 兄の直充が通っている、誠星大学。

 少し前、進路について家族で話していたときだった。

『まだ行きたい大学決まってないなら、一回来てみれば?』

 直充にそう言われた。

 亜美はまだ、自分が何を学びたいのか、はっきり決めていない。

 大学には行きたいと思っている。

 けれど、どこの大学へ行きたいかと聞かれると困る。

 ここがいい、という場所がない。
 これがしたい、というものもない。

 だから兄の誘いに乗った。

 ただ、それだけだ。

「亜美ー」

 一階から声がする。

「そろそろ出るぞ」

「今行く」

 返事をして、鞄を持つ。

 部屋を出ようとして――また鏡を見る。

「……大学って、これでいいのかな」

 制服で行くのだから、どうしようもないのだけれど。

 見知らぬ場所へ行くことに、少しだけ緊張しているのかもしれない。

 亜美は最後に前髪を指で整えてから、部屋を出た。
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