龍は千年、桜の花を待ちわびる
お尻についた花びらを払うと、私に手を差し出した。


「宮殿内を案内してやる。」
「ありがとう!」


皇憐の手を掴んで立ち上がると、私もお尻についた花びらを払った。

皇憐に連れられて林を抜けると、皇憐は林から私の部屋までの行き方を教えてくれた。その後皇憐の部屋の場所も教えてもらったが、私の部屋から林へ行くよりも近かった。


「秀明にはもう会ったのか?」
「まだなの、挨拶も兼ねてお会いしたいと思っているんだけど…。」
「じゃあ秀明の所に行ってみるか!」
「お、お邪魔じゃないかしら…?」
「俺が邪魔なわけない。」


そう悪戯っ子のように笑う皇憐は、私の心配を他所に歩き始めていた。仕方がなくその後について行くが、私は不安でいっぱいだった。

そうこうしているうちに、秀明様の部屋に着いてしまった。私は不安でモジモジしてたが、皇憐は構うことなく部屋の扉を開けた。


「秀明、居るかー?」


皇憐に続いて扉から顔を覗かせてみると、秀明様は明らかに勉強時間中だった。絶対に邪魔だ。怒られる。
そう思った私とは裏腹に、秀明様も指導をしていた方も、私たちを笑顔で迎えてくれた。


「皇憐。どうしたの?」
「お前の婚約者が迷子だったから連れて来た。」


そんな風に言うものだから、私はおずおずと部屋の中へ入った。


「お、お初にお目にかかります、秀明様。桜琳と申します。」


皇憐のとき同様に最敬礼の姿勢で挨拶をすると、秀明様にすぐに顔を上げるよう言われた。


「よろしくね、桜琳。これから長い付き合いになるんだろうし、様付けも敬語もいらないよ。友達だと思って、ね?」
「は、あ、えっと、うん…。」


拍子抜けしてしまった。ここの人たちは皆こうなんだろうか。てっきり孤独な日々が待っていると思っていたのに。


「皇憐様、秀明様はまだお勉強のお時間でして…。」


指導にあたっていた方がそう声をかけると、皇憐は1つ頷いた。


「邪魔して悪かったな。まだ結構かかるのか?」
「そうですね、もう少し…。」
「じゃあ桜琳はもう少し俺と遊ぶか。秀明も終わったら来るか?」
「うん、行こうかな。」
「分かった、頑張れよ。」


私はその光景が不思議で、皇憐に退室を促されるまでボーッとやりとりを眺めていた。
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