龍は千年、桜の花を待ちわびる
「ただね、やっぱり僕の術式には欠陥があるんだよね。」


そう笑う秀明に、空以外の鬼は呆れた顔をした。何十年も経つのに相変わらずすぎると顔が語っている。


「霊力を持つ僕は、今世の記憶を引き継げると思う。でも霊力を持たない桜琳は、『桜琳だった記憶』をちゃんと引き継げるか、賭けなんだよね。」
「それは…仕方ないわね…。」
「あと、転生先がこの世界とは限らないんだ。」
「え…?」
「恐らくだけどね、他にも異なる世界って沢山あると思うんだ。まぁ、召喚はそんなの関係なくできるようにしたけどね。」


私は思わず笑いを漏らした。相変わらずすぎる。やはり、秀明はとても優秀だ。


「どうかな?」


微笑んで首を傾げる秀明に、私は微笑み返した。
もし、本当に叶うなら。我が儘を、言っても良いのなら。


「最高の奇跡だわ。」


そう言うと、秀明は安心したように笑った。


「それじゃあ空、やるよ。」
「うん…。」
「皇憐もきっと聞こえたよね? また1000年後に会おうね、皆で。…あ、ちなみに術式が効果を発揮するのは僕らが死んでからだからね! 今すぐじゃないよ!」


そう秀明が言うと、ドッと笑いが起きた。


「今すぐ死ぬのかと思ったではないか!」
「秀明って本当…。皇帝が務まったのは桜琳のおかげね。」
「緊張感ねぇな!」



皆が笑う中、秀明と空は転生の術式を発動させた。成功したかどうかは、言うまでもない。


私はその数年後、皆に頼んで連れて行ってもらった桜林で青空の下、秀明より先に息を引き取った。


自信を持って言える。


辛いことも悲しいことも沢山あったけれど、幸せな人生だった、と。
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