だって、しょうがない

16

 ◇ ◇ ◇
 定時で仕事を終えた愛理は、実家の玄関前に立ち、家の様子を窺う。
 都内でも緑が残る地域にある愛理の実家は、会社からだと電車の乗り継ぎが悪く1時間半はかかる。
 すっかり辺りは暗くなり、家には明かりが灯っていた。

 久しぶりに実家へ帰って来たけれど、自分の価値を認めてくれない家族へ、これから離婚の話しをするかと思うと、気持ちが沈む。憂鬱な気持ちで玄関を開けた。

「ただいま」

「あら、愛理、珍しいじゃない。急にどうしたの?」

 めったに寄り付かない愛理の訪問に母は、目を丸くしている。

「仕事で福岡に行ったからお土産持ってきたの。それと、話しもあって……」

「なんの話かしら、いい報告だといいんだけど」

 そう言って、お土産を受け取り、いそいそと台所へ向かう母の背中に声をかけた。
 
「……お父さん居る?」

「テレビ見てるわよ」

 リビングの扉の向こうから、テレビのアナウンサーが興奮しながら何かをまくし立てている音声が聞こえてきた。野球でも見ているのだろうか、ひいきのチームが勝っていれば、父の機嫌が良いのにと思いながら扉を開く。

「お父さん……久しぶり」

 声をかけると父は、TVから愛理の方へと視線を移した。

「こんな夜にどうしたんだ。淳君は?」

「仕事で福岡に行ったからお土産を届けに、ひとりで来たの」

「仲良くやっているのか? お前は女なんだから出しゃばらずに、淳君を立てて行くんだぞ」

 父は相変わらずの話をして、野球中継が気になるのかTVへ視線を戻した。
 そのタイミングで母親がお茶を持ってリビングへ入ってくる。
 愛理は、両手を握り込み、口を開いた。

「あの……ふたりに話があるんだけど……」

 
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