だって、しょうがない
 以前のように佐久良と愛理のふたりが淳を取り合っていると思って、美穂は心の中で笑っているのだろう。
 愛理は、美穂の表情を見ているうちに沸々と怒りがこみあげてくるのを感じていた。
 心の中の染みが大きく広がっていく。

 華道家のお家元で生まれた美穂は、親のコネも手伝って、フラワーアレンジメント講師として活躍。その関係で今回の良縁も掴んだのだ。誰からみても恵まれた生活をしている。退屈しのぎの遊びで友人の夫と関係を持ち、家庭をかき回しておきながら、他人事とばかりに、高みの見物を決め込む美穂を許すわけにはいかない。

 愛理はスマホに送られてきた住所を思い浮かべた。
 田辺製薬の御曹司との結婚を控え、新居で暮らし始めた美穂へ、内容証明郵便で不倫に対する慰謝料を請求させてもらおう。
タイミングはいつがいいのか、考えを巡らせる。婚約式の前に送り順風満帆の生活が立ち消えるのが良いのか、それとも婚約式をして、すべてが順調に進んでいると思った後に送るのが効果的なのか。
いずれにしても、新居に慰謝料の請求が届いたときの、美穂の驚く顔が見られないのは残念な気がした。
 
 美穂が、作り笑いすら浮かべられないほど、驚く様を見てみたい。
 ふと、そんな考えが脳裏を過る。

「あのさ、来週の婚約式、ホテルLa guérisonだっけ? いまから待ち遠しいね」

 と、気まずくなった雰囲気を変えるような、由香里の声が飛び込んできた。

「ホント、楽しみだね。いよいよ来週か」

 懲りない佐久良は、きっと、御曹司の友人に思いを馳せているのだろう。

「ふふっ、お料理も美味しいから、楽しみにしていて」

 美穂は、自信に満ちた笑顔を浮かべている。

「うん、楽しみにしてる」

 愛理は、クリスマスを待つ子どものように微笑んだ。





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