だって、しょうがない
 淳からの電話かも……。
 そう思うと、愛理の心臓の鼓動は激しくなる。
 スマホの画面を確認すると、非通知ではないけれど知らない電話番号だ。
 でも、淳が新規の電話番号からかけて来ている可能性だってある。今、この状況で出る勇気は持てなかった。
 
 弁護士から淳のところへ、離婚の意思とこの先の連絡方法について、話しが行ったはずだから、それで怒って、会社まで来たのかもしれない。
 今後の生活を考えたら、会社で騒ぎを起こしたくないし、同僚にも知られたくない。
 辺りをキョロキョロと見回した。建物裏口に近いところにある女子トイレを見つけ、そこへ避難する。

 トイレの個室に入り、もう一度、追跡アプリのWatch quietlyを確認する。赤い点滅はビルの正面玄関へ移動しているように見えた。

 勤務先の会社が入っているオフィスビルの1階には、コンビニとカフェがある。もちろんその部分は、一般にも開放されていて、フリーで入れる。
待ち伏せするとしたら、その付近に居るはずだ。

 追跡アプリで確認をしていなかったら、正面玄関でいまごろ鉢合わせをしていただろう。
 それにしても、自分の夫から逃げ回るような事態になるなんて、なんのために結婚したのか。
 そんなことをふと思い、愛理は、ふぅーっと、大きく息を吐き出した。

 

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