だって、しょうがない
 スマホの画面を見つめたまま、愛理は息を詰め動けずにいた。やがて、画面はタイムアウトで暗くなる。
 トイレの方からジャーと水を流す音が聞こえ、ハッと、我に返った。

「いやー、まいった。急に腹が痛くなって、やっと落ち着いた」
と、首の後ろに手を当てながら、淳は悪びれる様子もなくテーブルにつく。
 そして、椅子の上に置き去りにされていたスマホを何食わぬ顔で手に取り一言。

「あっ、スマホ置きっぱなしだった」

 その様子にゾワリと悪寒が走る。

── 結婚してまだ2年なのに、浮気してるってことだよね。

 さっき、見たスマホの画面の文字が、頭から離れない。そんな愛理の様子を気にもかけない淳は、スマホの画面へ視線を戻し、テーブルの上に残されていた肉じゃがを口に運んだ。

 食事を終えると、汚れた食器もそのままにして、立ち上がり「ごちそーさん」と独り言のようにつぶやき、バスルームへと足を向けた。そんな時でもスマホを手放さずにいる。

 『不動産リフォーム樹』の跡取りで設計士でもある淳は、ガテン系に人気の防塵防水性能のスマホtuyokuという機種を使っている。
 防水加工を良い事に風呂場に持ち込むほど、ゲームに夢中でスマホを手放さないのかと思っていたのに、浮気連絡のカモフラージュだなんて許せない。

 愛理は、グッと奥歯を嚙みしめ、自分のスマホの検索アプリを立ち上げる。

『浮気 証拠集め』と入力した。
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