だって、しょうがない
 虚しさが胸に広がり、自分の存在が否定されているようだと思った。

── 結局、淳は私に家政婦的な役割しか期待していないんだ。

 諦めに似た気持ちで、スマホの画面に視線を向けたままの淳に話し掛けた。

「ねえ、淳のお母さん、もうすぐ誕生日でしょう? 今度の日曜日、淳の実家へ行く前にプレゼントを買いたいから16時出発でいい?」

淳は、スマホから目を放さずに煩わしげに答える。

「たかがプレゼントを買うのにそんなに時間掛かんないだろ。17時でいいよ」

 プレゼントが決まっていて、買い物をするのと、出先で選ぶのとでは、掛かる時間が違う。それに自分の母親のプレゼントを《《たかがプレゼント》》の扱い。

──きっと、私の誕生日もそんな扱いだったんだ……。

今まで、目を塞ぎ耳を閉じて、気付かない振りをして来た物事が、淳の不倫がわかってから、鮮明に見え、聞こえ出した。淳にとって、自分がどういう存在だったのかが、見える度に気持ちが冷えて行く。

「あ、それと、私、金曜日、由香里たちと飲み会があるから遅くなるよ。夕飯どうする?」

「遅くなるなら、俺も会社の仲間と飯食ってくるから気にしなくていいよ」

 淳は、スマホから視線を上げて答える。愛理は、久しぶりに淳の顔を見た気がした。

── 私が遅くなると聞いて、機嫌が良くなった。きっと、不倫相手と出かけるのに都合がいいからだよね。
  




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