だって、しょうがない
 愛理は、何かに招かれたようにスマホアプリの可愛い猫が目印のアイコンをタップした。
 メニュー画面が現れ『あいさん、ようこそ』と表示される。
 由香里が登録をした際に愛理の名前がひらがなの「あい」で入れたようだ。
 可愛く装飾された『Enter』のステッカーを押すと掲示板の画面に進む。掲示板に今日の日付と場所を入力、そして時間は『今から会える人』と入力し『OK』のステッカーをタップした。

── 男なんていくらでもいる。
   淳じゃなくてもいいんだ。
   だって、しょうがない。
   淳が先に裏切ったんだから……。

 すると、直ぐに返事が3件も入った。それぞれ、簡単な自己紹介とPR、そして、マスクや帽子を身に着けている写真が添付されている。はっきりと顔は分からないけれど、なんとなく服装などで雰囲気が伝わってくる。
 その中で、黒い帽子を深く被り、ネイビーのVネック長袖Tシャツの袖を捲り上げている男性に惹かれた。捲り上げている袖から出ている上腕の筋肉の付き方や手の形が、綺麗だと思ったからだ。
 男性の書き込み欄を見ると30代前半、サービス業、「誕生日なんだけど、一緒に居てくれる人を探しています」と書かれていた。
 
──出会い系サイトを利用して、男の人に会うなんて自暴自棄になっているのかもしれない。けれど、今は誰かに必要とされたかった。誕生日を一緒に祝う人を探しているこの男性なら、今日だけでも私を必要としてくれるかもしれない。

 
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