だって、しょうがない
 重ねた唇が離れると、愛理は寂しく思い、熱を欲しがるように北川の背中へ両手をまわし、ギュッと抱きしめた。頬を寄せた彼の胸から、早く動く鼓動がトクトクといっているのが伝わってくる。

「KENさん……」

 そう呟いた愛理の頬を北川の手が包み、チュッと短いキスを落す。小鳥が啄むようなキスは気恥ずかしさが先に立ち、愛理の胸の鼓動も早鐘を打ち続けている。北川の手は愛理の頬に沿えられたままで、彼の瞳から視線を逸らせずにいた。
 すると、形の良い唇が動く。

「あいさんに会えて良かった」

 静かに瞳を閉じた北川が何かを伝えるかのように、おでことおでこをコツンと合わせた。
 ”今、自分を必要としてくれる人が居る” そう思うと愛理の胸の奥は熱くなる。
 独りぼっちで彷徨っていた自分の手を取り、優しい言葉を掛けてくれる。それは、ずっと孤独を感じていた愛理には、何よりも必要だった。

──今だけの恋人。
 東京に帰れば、縁が切れてしまう刹那的な関係。
 でも、心が惹かれている。
 
「私も……KENさんに会えて良かった」

「このまま進んでもいい?」



 

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