だって、しょうがない
「うん、仕事でね。翔くんも?」
 と愛理が答えたタイミングで、愛理の搭乗機の変更が終了したと職員からチケットを渡された。愛理のチケットに視線を移した翔が、目を細め笑みを浮かべる。

「オレも仕事だったんだ。あ、同じ便だね。じゃ、せっかくだから席を隣にしてもらおう」
 
 愛理の返事を待たずに翔は、二人分の座席をアップグレードした席への変更希望を職員に告げる。愛理は断るタイミングを逃したまま、それを受け入れるしかなかった。

「翔くん、差額払うから金額教えて」

「大丈夫だよ。仕事で飛行機を使う機会が多くてマイルが貯まっているんだ。マイルで精算したから心配ないよ」

 心苦しく感じたけれど、あまり言うのも好意を無にしてしまうと、愛理は有り難く受け取ることにした。

「ごめんね。ありがとう」

「それより、イメチェンしたんだね。驚いたよ。いつ髪の毛切ったの?」

「こっちに来て直ぐの木曜日に……ね」
 と北川のことを思い出してしまい、チクリと胸の奥が痛み表情を曇らせた。

「……木曜日なんだ。前の長い髪も良かったけど、今の髪型もかわいいね。オレより年上には見えないよ」

「ありがとう、気に入っているから褒められると素直にうれしい」

 髪に手をあてた愛理のはるか後ろに、背の高いアッシュグレーの髪色の男が居るのを翔は見つける。訝し気に目を細め、翔はその男の様子を窺う。アッシュグレーの髪色の男はキョロキョロと誰かを探している様子だ。

 翔は、何かを察したように自分が被っている帽子を愛理へ被せた。

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