壮麗の大地ユグドラ 芳ばし工房〜Knight of bakery〜①

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―――――多くの生命が営む星『ユグドラ』

この星には太古の昔より、様々な人種と、後に、魔物と呼ばれる異形(いぎょう)の生物が存在していた。

かつて多種多様な種族が共に手を取り合い、相容(あいい)れぬ魔物と敵対し、それぞれの暮らしを確立すると、(やが)て人類は、信念の違いを掲げて分離し国を創り、遂には人同士での戦いを始めてしまう。

そして、国を統べる王と、それに忠誠を誓う騎士達が、互いの領地を奪い合う群雄(ぐんゆう)割拠(かっきょ)の時代に入ると、世界は戦火に包まれ、多くの罪なき人々の血が流れた。

そんな中、この虚しき戦いを止めようと立ち上がった者達がいる。

それは、世界の中心たる大陸、中央大陸の南方を占める『グランヘイム王国』国王と、そして、その国の思想に賛同する国々の王だった。

不戦協定を結ぶ為、彼らが次々手を挙げると、一つの国家が誕生し、戦火は(くすぶ)りつつも終焉(しゅうえん)を迎えた。

そして時代は流れ、グランヘイム王国を中心とし、長らく大地に平穏を(もたら)した国家は、今また、個々に独立を始め、新たに生まれる欲望の連鎖の中、一つ、二つと、小さな戦火の火種を人々の暮らしの中へと落としていく。

それは、平凡な幸せを求めて結ばれた、この二人にも静かに迫っていた…。

中央大陸の北東、ノアトーン王国に属する『港町リジン』

この町で出会った、騎士シグリッドと町娘アイリスは恋に落ち、そして結ばれた。
とある理由からノアトーン騎士団を去ったシグリッドは、祖母が長らく営んでいた小さなパン屋を継ぐと、妻アイリスと共にのんびりと店を営み、平凡な日々を送っていた。

しかし、そんな平凡の中に、非凡の入り混じる暮らし。

実は、この小さなパン屋『(こう)ばし工房(こうぼう)』は、秘密裏にノアトーン騎士団と繋がる、特別な店だったのだ。

これは、ノアトーン王国を舞台に繰り広げられる、芳ばし工房の店主、シグリッド・ジャンメールと、その妻アイリスの、日々の物語である。
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