長嶺さん、大丈夫ですか?
「あ、あの、長嶺さん、これ……」


 慌てて窓を開けた麗華さんは俺が着せたコートを示してオロオロと困り果てた顔をする。


「あ、大丈夫です。 それフニクロですし、もう捨ててもらって」

「え、でも、」

「もう長く使ってるんでそろそろ捨てようかと思ってたんですよ。 じゃ、お気をつけてー」


 まだなにか言おうとする麗華さんを無視して、運転手にタクシー代を適当に渡し、車を発進してもらう。

 去っていくタクシーを見送ってふぅ、と息をつくと、容赦なく吹き付ける北風に身体が震えた。
 ひとまず一回帰って別のコート持ってこないと、と自宅の方に足を進める。
 
 はー、フニクロあったかいから結構気に入ってたんだけど……しかたない。 手切れ金だと思おう。
 高いコートの方じゃなくて本当によかった。


 そんな呑気なことを考えていると、また身震いしてクシュンとくしゃみが出た。



 
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