長嶺さん、大丈夫ですか?
「ここの社長さん相変わらずいい人だよなー」

 長嶺さんが穏やかに言う隣で、私は心臓が全然穏やかでいられない。


「あっ……」

 入り口から可愛らしい女性の声がして目を向けると、清楚な背の低い女性がお茶を持っていた。
 社長の溺愛する娘さん、麗華さんだ。 私と同い年で、最近仕事を辞めてお父さんの会社で事務員として働き始めたらしい。

「長嶺さん……っ、こんにちは」

 麗華さんが頬を紅潮させておずおずと入ってくる。

「麗華さん、こんにちは。お邪魔してます」

 長嶺さんがニコッとイケメンスマイルを浮かべれば、麗華さんはパッと恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 は~い、騙されないでください麗華さん。
 この人、冗談半分に圏外だと言っていた職場の後輩を押し倒すような男ですからね~~~!
 あと私もいますからね! 長嶺さんしか見えてないみたいですけど!

「あぁ、麗華。遅いじゃないか」

「もう、パパ!ノイーズさん来てるならそう言ってよ!」

「はっはっはっ」
 
 わぁ……社長さんが笑ってる……

「麗華は本当に長嶺さんが好きだなぁ」

「ちょっ、やめてよパパ~!」

 麗華さんは虎をポカポカ叩きながらチラチラと長嶺さんに目線を送っている。
 長嶺さんはひたすらにニコニコしている。
 いったい何を見せられてるんだ。

< 90 / 284 >

この作品をシェア

pagetop