次の恋はすぐそこに

「橋村くん!」

気付けば私は立ち上がってドア付近に行くなり、彼を呼び止めていた。

「なに?」

橋村くんは振り返って私を見る。

あの時、呆然としていた私を引っ張ってくれたこと。

話を聞いてくれて、気持ちが落ち着いたこと。

側にいてくれたこと。

伝えたいことはたくさんあるけれど、うまく言葉にできず口からでた言葉は……。

「ありがとう」

たったの5文字だった。

だけど、橋村くんは私が言いたいこと全て分かりきったみたいで少し口角を上げた。

「気を付けて帰れよ。秋葉(あきは)」

私に軽く手を振るなり、背を向けて再び歩き出す。

あ、秋葉って……。

いきなりの呼び捨てに、一瞬思考停止してしまったがそう呼ばれたことに対してイヤと感じなかった。

それどころか、胸がドキドキしている。

間もなくしてプシュとドアが閉まって、ゆっくり電車が動き出す。

私の心もなにか動き始めた気がした。


              ーENDー
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