離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
第二章 過去


第二章 過去

 目覚めて気がついた。自分が泣いていることに。

 久しぶりに、あの頃の夢を見たからだ。

 ここ最近はあまり夢にでることもなかったのに、現実に彼と出会ってしまったせいで、私の心が悲鳴をあげているせいかもしれない。

 手のひらで涙を拭いながら、カーテンから漏れている朝日を見つめ、朝から重いため息をつく。

 全部夢だったらいいのに。

 そう思いながら、朝日の眩しさから目を背ける様に私は掛け布団を引っ張って、頭からかぶった。

 あの日、玲司いや北山新社長が皆の前で中野元社長に紹介されて堂々と挨拶をしていた。

 みんな私と同じように驚いていたが、相手があの経済誌でも有名な北山玲司であったこと、そして中野元社長が認めたということで、おおむね好意的に新社長を受け入れていた。

 とくに春香をはじめ女子社員は、突然現れたハイスペックな王子様に浮き足だっている。

 みんな新しい環境になれていっている、それなのに私だけここに、いや過去にとどまったままだ。


* * *

 私と玲司が出会ったのは、私が新卒で就職した証券会社でのことだ。

 それは一年目が間もなく終わりの頃の二月。

 都内の支店に勤務していた私は、その日大会議室で行われる顧客向けのセミナーの担当だった。

 会場の設営、資料の用意、あちこち動き回って準備をした。

 今回は本社のアナリストが世界の経済状況を交えながら今後の市場の傾向や金融商品についての話をする。

 年に数度、顧客を集めて行われている。

 今回、大きなトラブルなくすべて終わってホッとしていた矢先、問題が起こった。

「このあと、少し付き合ってくれないか?」

 何度か接客したお客様に声をかけられた。

「ご相談ですか? 今、担当者を探してきますので――」

「いや、少し君と話がしたいんだ。実は今の担当者とは考え方が合わなくてね。できれば君に話を聞いてほしいんだが」

 いきなりのことに驚いたが、私が勝手に判断していい話ではない。

 それにまだ入社して一年目で、先輩のお客様を引き継ぐほどの知識も経験もない。

「そうなのですね。しかし私の一存で決めることはできないので担当者から連絡させますね」
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