離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
第三章 恋敵

第三章 恋敵

 いつもの毎日。はたらから見たらそう見えるに違いないけれど、私の中で色々なことが大きく変化しつつあった。

 梅雨があけ夏本番。まだ朝早い時間にもかかわらず、通勤中にセミの鳴き声が聞こえてきた。

 空調が効いている室内に入ると、生き返るようだ。

 今日も一番のりで職場に到着して、掃除からはじめる。あっという間にみんな出勤してきて活気があふれる。この徐々ににぎやかになっていくにつれて頭が仕事にきりかわっていく気がしている。

 始業時刻が過ぎて、目の前にある仕事をこなしていく。途中であちこちから声がかかり時間はあっという間に過ぎていく。

「お疲れ様」

 近くから声をかけられて、パソコンの画面から顔を上げる。

 そこには玲司――いや社長が立っていた。

「お疲れ様です。社長」

 まだ彼がこの会社にいるのに慣れないと思いながら、私が返事をすると同時に、彼は私の隣に座ってノートパソコンを立ち上げた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「え、あの。言ってくださったら私が社長室まで参りますので」

 なぜ社長である玲司がここに座るのだろうか。

「君が人気者だから、独り占めしたらみんなの仕事がはかどらないだろう」

「人気者って……そんなわけないじゃないですか」

「俺がここにいたほうが効率的でもあるだろう」

「だからってここに座らなくても」

 思わず心の声が漏れてしまう。

「わが社は席は決まってないだろ。どこに座っても問題ないはずだ」

「それは社員の話であって、社長はちゃんとご自分のデスクがあるでしょう?」

「固いこと言うなよ、たまにはいいだろう」

 結局私の忠告など聞く気もないようで、さっさと仕事をはじめた。上司である社長がいいと言っているのものを、いつまでも私があれこれ言う立場にない。

 隣に座りいくつか疑問点を上げていく。仕事の話になり頭をすぐに切り替える。

「以前この会社に入れているシステムだけど、担当は誰かな?」

「営業が君塚さんで、技術はたしか――」

「なるほど、ふたりとも今はここにはいないみたいだから、あとで話が聞きたいな」

 私はすぐに三人の予定を確認して、時間の調整をする。

「ふたりには、今確認しましたので調整でき次第、スケジュールに反映させておきます」

「有能な右腕がいて助かるよ」

 笑顔を浮かべて褒められると、単純な私はうれしくなってしまう。

 そういえば昔から、私を褒めるの上手だったよね。お義母さん直伝の肉じゃがもちょっと失敗しても〝味が斬新〟って言って食べてくれたし。

 そこまで考えてハッとした。私たちに昔なんてないのに。

 気が緩むとつい昔のことを思い出してしまう。自分から彼とはこの会社ではじめて会ったという設定を言いだしているのに、失敗してしまいそうだ。

 なるべく距離を取りたいと思っているのに、なんで彼は私の隣に座っているんだろう。

 それとなく社長室に戻るように促してみる。

「社長がここにいたら、みんな働きづらいんじゃないですか?」
< 36 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop