離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
「どうぞ。お茶くらい入れるよ」

 ここは辞退すべきだとわかっているけれど、彼が今どんな部屋に住んでいるのか興味がある。

 好奇心に逆らえずに「お邪魔します」と彼のあとに続いた。

 玄関から続く廊下には、知らない画家の絵画が飾られていた。突き当りの扉を開くとリビングになっているが、大きなソファと本棚、それと観葉植物くらいしかなかった。

 目につくものはそれだけ。いいように言えば非常にシンプルで、別の言い方をすれば殺風景ともいえる。

「ここには寝に帰るだけだから。なんにもないだろ」

 私が抱く感想が想像できたのだろう。

「うん。せっかく広いのにもったいないね」

「もったいないか。そんなふうに思ったことはなかったな」

 彼が笑いながらキッチンに向かっている。

「あの、すぐに帰るので、お茶結構ですから」

 あまりうろうろして、脚がまた痛み出したらと思うとじっとしていてほしかった。

「いいから、お茶出して君を引き留めようとしてるんだから、邪魔しないでほしいな」

 彼にまだ一緒にいたいと遠まわしに言われて、心の中で喜んだ。距離を取るべきだとわかっているけれど、なかなかコントロールが難しい。

 彼がゆっくりとグラスに入ったお茶を持ってこちらに向かってくる。私はソファから立ち上がり、それを受け取りに行った。

「ありがとう。もうだいぶよくなったからそんなにけが人扱いしないでくれ」

「あんなに痛がっていたら立派なけが人ですよ。また痛くなるかもしれないから、無理は禁物です」

 ゆっくり歩く彼に付き添ってうしろからついていく。ローテーブルにグラスを置くと、その前に彼が座ったので、私も隣に座った。

 しばらくどちらもだまったまま、お茶を飲んでいた。だけどそこにきまずい空気はなく、だけどどこかくすぐったくてそわそわしてしまう。

 過去にもこんなことがあったなと、記憶をたどって思わず笑ってしまった。

「なに?」

 私がいきなり笑ったので、疑問に思うのは当然だ。

「ちょっと思い出したの。たしかはじめてのデートのときがこんな感じだったなって」

 会話が弾んでいないわけじゃない。でもふと言葉がなくなるときがあった。あの頃は相手を意識して緊張して、お互いを探り合っていた。

「そうだったな。俺もがらにもなく緊張してた」
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