離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 私の気持ちはすでに彼にばれてしまっている。そして私が彼に離婚を求めた理由もおそらくわかっているのだろう。それを承知の上でもう一度私に彼の手を取れというのだ。しかし私にはその覚悟がないのだ。

「四年前、琴葉が頑張ってくれた。だから今は俺が頑張る番だろう」

 私が迷っているのが伝わったのか、彼は説得に躍起になっている。一歩を踏み出せない臆病な私。

 彼はその背中を必死になって押そうとしていた。

「玲司……私、お義母さんや北山の人と色々あって」

「わかってる、言わなくてもわかってる。結婚するときに琴葉だけは守るって思っていたのに。結局俺が琴葉に守られていたんだな」

「私、あなたをちゃんと守れていた?」

 玲司は私の問いかけに、強くうなずく。

「もちろんだ。今目の前にいる男はしっかりと自分の足で立っているだろう。自らの意志で行きたいところへ行ける。だから琴葉を迎えに来た」

 四年前の私の選択は間違っていなかった。あの胸を引き裂かれるような苦しみも彼の今と引き換えと言われたら、一切の後悔はない。

「これからは、命をかけてでも琴葉を守りたいんだ。だからそばにいてほしい」

 自分を犠牲にするのを厭わないほどの相手に、こんなこと言われたらもう耐えられなかった。

「またあなたに好きって言ってもいいの?」

 ずっと心の奥底にしまってきた気持ちだ。けっして自分の中から出してはいけない思い。けれど一生私の中に生き続ける。

 時々浮上してくるたびに、苦しくてなくなってしまえばいいと思ったことすらある。

 でも今は報われたこの気持ちを思いきり彼にぶつけたい。

「玲司、好き。ずっとずっと好きだった」

「あぁ琴葉。ずっとその言葉が聞きたかったよ。夢のようだ」

 そう夢の中にいるようだ。そう思えるほど私は彼の腕の中で今まで感じたことのない幸福に涙を流していた。

「玲司、ただいま」

「おかえり、琴葉」

 彼の腕の中で顔を上げる。しっかりと目が合う、至近距離で彼と見つめ合うとその漆黒の瞳に自分が映っていた。

 彼の中に私がいる。

 そう思った次の瞬間、私はキスの予感に目を閉じた。

 触れるだけのキスだった。柔らかい彼の唇は昔の甘い記憶を呼び起こすとともに、今の私の胸をどうしようもないくらいときめかせた。
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