その笑顔を守るために
今から寝ろって言われても…
未だ日も高いお昼時だ。昼食だってすんでいない。
瑠唯は勢いよくベットから起きあがると、窓を開けてベランダにでる。梅雨入り間近い六月の少し湿った風が、しかし心地よく室内に流れ込む。ベランダに出て大きく深呼吸すると、先日買い求めたデッキチェアに浅く腰を下ろした。水面にキラキラと光を放つ凪いだ海が見える。西側に広がる太平洋を望むこの景色を瑠唯はとても気に入っていた。彼女はひとつ小さな溜息を漏らすと立ち上がり、手すりに寄りかかって海を見る。それにしても…なんという過酷な偶然なのだろうか…今いちばん忘れたくて…そして会いたかった人…山川修司は、以前のように穏やかで優しくて…でも以前よりも逞しく、自信に溢れていた。それに比べて自分はどうだろう…あの頃と全く変わってないのではないだろうか?いくら臨床を重ねても、いくら手術を熟しても…
あの時、時間が止まったままで一歩も前へ進めていないような気がする。…また少し走ってこよう…瑠唯は、昔に引きずり戻されそうになる思考を振り払い、着替えをして部屋を出ると走り出した。
一時間程走り、寮の前まで戻った瑠唯の頭上から力の抜ける声が降ってきた。
「あれ〜?瑠唯ちゃん…帰ってたんだ〜」
声のする方を見上げると…ヒョッコリと滝川が顔を覗かせる。瑠唯の部屋の隣の部屋のベランダだ。
「えっ…滝川先生?」
「何?ジョギングしてきたの?元気だねぇ〜成田まで、大野先生のお迎えに行ってたんじゃ無いの?長谷川先生と…デートじゃあないかって、スゲー噂になってたよ」
ニヤニヤと意味深な顔で続けた。相変わらずチャラい…
瑠唯はがっくりうなだれ頭を抱え
「滝川先生…お隣さんだったんですね…っていうか…ここって三十半ば位までに出るって暗黙の了解があるんじゃないんですか?」
「いいの、いいの…俺、ここの主だから…それより、大野先生は?」
「予定通り帰国されましたよ!行ってきましたよ…空港…今、院長とお話しされています。私は、お邪魔かと思いまして…」
「そーなんだ。てっきり、空港で山川と鉢合わせて、逃げてきたのかと思ったんだけど…」
滝川がニヤリと笑った。
「なんで…なんで滝川先生がそんな事知ってるんですか!」
「やっぱ、そーなんだー」
満足気に顔を傾けた。
カマをかけられた!咄嗟にそう思った。にしても…何故滝川がそんな事を知っているのか?まさか山川との過去の関係も知っているのだろうか?
そんな瑠唯の疑問を察したかのように滝川は続ける。
「山川と俺…ガキの頃からのつきあいでさぁー…あいつは昔から真面目な優等生で、俺はこんなんだからさー子供の頃は結構ぶつかったりしたんだけど…中二の時、殴り合いの大喧嘩して…原因なんか忘れたけど…それからちょこちょこ話すようになって…大学もおんなじだったから、同郷で何かとつるんで、呑んだりしてたら結構気が合うのがわかって…今じゃプライベート含めていろんな事話すよーなんだったら、あいつの事で困った事あったら何時でも相談に乗るからね〜あっ…それなりに報酬はもらうからね!」
とウィンクをする。
…幼馴染?…
相談ってなんだ…報酬ってなんだ
…なんだか、いちばん知られたくない相手にいちばん知られたくないないことを知られてしまっているようで…いやな予感がする瑠唯なのであった。
未だ日も高いお昼時だ。昼食だってすんでいない。
瑠唯は勢いよくベットから起きあがると、窓を開けてベランダにでる。梅雨入り間近い六月の少し湿った風が、しかし心地よく室内に流れ込む。ベランダに出て大きく深呼吸すると、先日買い求めたデッキチェアに浅く腰を下ろした。水面にキラキラと光を放つ凪いだ海が見える。西側に広がる太平洋を望むこの景色を瑠唯はとても気に入っていた。彼女はひとつ小さな溜息を漏らすと立ち上がり、手すりに寄りかかって海を見る。それにしても…なんという過酷な偶然なのだろうか…今いちばん忘れたくて…そして会いたかった人…山川修司は、以前のように穏やかで優しくて…でも以前よりも逞しく、自信に溢れていた。それに比べて自分はどうだろう…あの頃と全く変わってないのではないだろうか?いくら臨床を重ねても、いくら手術を熟しても…
あの時、時間が止まったままで一歩も前へ進めていないような気がする。…また少し走ってこよう…瑠唯は、昔に引きずり戻されそうになる思考を振り払い、着替えをして部屋を出ると走り出した。
一時間程走り、寮の前まで戻った瑠唯の頭上から力の抜ける声が降ってきた。
「あれ〜?瑠唯ちゃん…帰ってたんだ〜」
声のする方を見上げると…ヒョッコリと滝川が顔を覗かせる。瑠唯の部屋の隣の部屋のベランダだ。
「えっ…滝川先生?」
「何?ジョギングしてきたの?元気だねぇ〜成田まで、大野先生のお迎えに行ってたんじゃ無いの?長谷川先生と…デートじゃあないかって、スゲー噂になってたよ」
ニヤニヤと意味深な顔で続けた。相変わらずチャラい…
瑠唯はがっくりうなだれ頭を抱え
「滝川先生…お隣さんだったんですね…っていうか…ここって三十半ば位までに出るって暗黙の了解があるんじゃないんですか?」
「いいの、いいの…俺、ここの主だから…それより、大野先生は?」
「予定通り帰国されましたよ!行ってきましたよ…空港…今、院長とお話しされています。私は、お邪魔かと思いまして…」
「そーなんだ。てっきり、空港で山川と鉢合わせて、逃げてきたのかと思ったんだけど…」
滝川がニヤリと笑った。
「なんで…なんで滝川先生がそんな事知ってるんですか!」
「やっぱ、そーなんだー」
満足気に顔を傾けた。
カマをかけられた!咄嗟にそう思った。にしても…何故滝川がそんな事を知っているのか?まさか山川との過去の関係も知っているのだろうか?
そんな瑠唯の疑問を察したかのように滝川は続ける。
「山川と俺…ガキの頃からのつきあいでさぁー…あいつは昔から真面目な優等生で、俺はこんなんだからさー子供の頃は結構ぶつかったりしたんだけど…中二の時、殴り合いの大喧嘩して…原因なんか忘れたけど…それからちょこちょこ話すようになって…大学もおんなじだったから、同郷で何かとつるんで、呑んだりしてたら結構気が合うのがわかって…今じゃプライベート含めていろんな事話すよーなんだったら、あいつの事で困った事あったら何時でも相談に乗るからね〜あっ…それなりに報酬はもらうからね!」
とウィンクをする。
…幼馴染?…
相談ってなんだ…報酬ってなんだ
…なんだか、いちばん知られたくない相手にいちばん知られたくないないことを知られてしまっているようで…いやな予感がする瑠唯なのであった。