王子の「妹」である私は弟にしか見えないと言ったのに、王女として正装した途端に求婚するなんてあんまりです〜まさか別人だと思ってる!?〜

10.二人

「マルセルったら慌てちゃって大変だったのよ」

 フローレアはシャロンの髪を丁寧に梳かしながら笑っている。

「スペンスが脅したの。『シャロン、もしかしたら今夜いい相手が見つかってしまうかもしれないな』って」

「お兄様がそんなことを言うなんて意外だわ」

 以前、どこかの屋敷でマルセルとシャロンがお似合いだと言われたときだ。スペンスは少し笑って、『お転婆娘を親友に、っていうのは申し訳ないから』と、オーウェンと同じようなことを言った。

 目を閉じて、フローレアが化粧を施し終えるのを待っている。仕上げに口紅を滑らせたら完成だ。

「シャロン、今日も綺麗よ」

「ありがとう、フローレアが手を尽くしてくれたおかげよ」

「いいえ、貴方が輝いてるからよ」

 フローレアは完成したシャロンの姿を見ると、うるうると瞳を潤ませていた。

 今日は二人の婚約を発表する小さな晩餐会だ。親しい人間と家族だけでゆっくりと食事を囲む。

「準備は出来たか?」

 部屋をノックする音と共に、マルセルが控えめに声を掛けた。扉を開けると、マルセルはハッと口元を抑えていた。あまりの美しさに緩んでしまう頬を押さえているのだろう。
 
 その気持ち、分かるわ。と、シャロンの背後からマルセルの表情を漏らさず見ていたフローレアは一人頷いた。

「……綺麗だよ、シャロン」

 鋭い眼差しは、シャロンを見た途端に自然と綻んでしまう。マルセルは赤みがかった髪を後ろで丁寧に撫でつけている。いつもより大人びて見えた。

「マルセルさんもとっても素敵です」

 マルセルがそっと手を差し出すと、シャロンはすぐにその手を握り返してくれる。二人は寄り添うようにみんなの待っている部屋へと向かった。
 
 彼女の髪には、あの夜と同じスズランの髪飾りが柔らかく揺れていた。
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