理想の女ではないから婚約破棄したいと言っていたのは貴方の方でしたよね?

17.エピローグ

 リーゼは翌日の新聞でエリオットが爵位を取り上げられたことを知った。

 エリオットに偽物を売っていた商人は、後ろ盾がいなくなったせいかすぐに捕らえられたらしい。おかげで偽物も流通することがなくなったという。

 去り際に、エリオットは消え入りそうな声で「すまなかった」と言った。それは本心から出た言葉のようだった。

 短い結婚生活だったが、リーゼには楽しかったこともあった。僅かではあったものの、広い屋敷の切り盛りは勉強にもなった。

 風の噂で、ティナが別の屋敷で侍女として働いていると聞いた。少しばかり生意気だが、女主人がパーティーの支度をするのに美的感覚が優れている彼女を重宝しているらしい。

 彼女とはいろいろあったけれど、平和に暮らしているようで少し安心した。

 そう言うと、彼は人の良さそうな顔で笑った。

『彼女も酷く傷ついていましたからね』

 ティナは贈り物で愛を試していた。結婚してくれない代わりに、男はどこまで自分に捧げてくれるのか。エリオットはマメに土産物と称して贈り物をして応えてくれていたのだろう。それが全て偽物だったのだ。

 鑑定士のトマスは、今回の事件をきっかけにプティット国で真贋判定の仕事が絶えなかったらしい。その関係でしばらくはプティット国で暮らしていたようだが、今後はもっと大きくて栄えている国で腕を磨きたいらしい。例えば、レーヴ国のような。

 どうしてリーゼがそんなことまで知っているのか。

 それは、あの事件をきっかけにトマスと文通をしているからだ。ティナのことも彼から聞いたことだ。

『新しい恋をしようと思ってはいないのですか』

「新しい恋は……」

 さあ、この続きになんて書こうか。リーゼはふと、ペンを止めた。

 彼からの手紙はいつも薄い紫色の封筒だった。あの日の葡萄色の唇が忘れられないからだと言う。

 玄関先が慌ただしい。ペリが嬉しそうに窓を開ける。下を見ると、彼が両手一杯に花束を抱えていた。あまりに大きな花束で足元がおぼつかないようだ。よたよたと、一歩前に進んではまた後ろに退がってしまう。

「トマス!」

「リーゼ……!」

 トマスはこちらに気付くと、一生懸命手を振ろうとしているようだった。両手が塞がっていてどうしたって無茶なことなのに、リーゼのために懸命に応えようとしてくれていることが愛おしい。

 彼は太陽みたいだ。いつでもリーゼの心を温かくして、丁寧な優しさで包んでくれる。

 窓から気持ちの良い風と共に、一枚の花弁が部屋に舞い込んだ。
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