冷徹な御曹司は親友の妹への溢れ出る独占欲を抑えられない。


「もしかして、妬いた?」

「っ、そんなわけないでしょっ」


 クズでいい加減で、お兄ちゃんとは全然違うのに。
 なのに初めて恋をした人で、唯一恋をした人。

 子ども扱いしかされてないし、キリさんは誰にも本気にならない。だから不毛な恋だと悟ってだいぶ前に失恋済み。
 それ以来未だに違う誰かと恋ができない。


「紫こそ彼氏は?」
「いませんけど?」
「紫ってどんなやつが好きなん?」
「優しくて誠実で家族を大事にするお兄ちゃんみたいな人です!」
「相変わらずブラコンだな……」


 私が恋できないのはキリさんのせいではない。
 お兄ちゃんより素敵な人がいないからだ。だってお兄ちゃんは最高なんだもん。


「キリ、紫のこと口説くなよー?」


 厨房からお兄ちゃんが顔を覗かせる。


「口説いてねーよ。ほんとお前ら仲良すぎ」

「紫が嫁入りするまで俺がしっかり面倒見るって決めてるからな」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私しばらく結婚なんてしないから」

「ブラコンシスコン兄妹……」


 何と言われようが、お兄ちゃんより素敵な人なんていない。もし存在するなら結婚したいかも、って思うけどまだ当分いいかな。

 まあ正直なところ、恋愛くらいはしてみたいって思うけどね……。


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